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ニューヨーク市の被害軽減計画:2024年版

概要

ニューヨーク市が「被害軽減計画」の最新版を発表する予定です。この計画は同市が直面するあらゆる災害に対する準備と住民・構造物・経済への被害を軽減するガイドラインとなります。

米の連邦緊急事態管理庁からの被害軽減の助成金がもらえる要件として同計画が必要です。したがって、申請する州・地域・市町村はニューヨーク市同様、計画を用意しています。NYCの計画は政策に関する決定文書でも強制力を持った要求でもなく、単なる準備と軽減対策のガイドです。五年ごとにアップデートされますが、いつでも内容に変更があれば修正できます。その上、オンラインで提供されることによって、アクセスしやすく、インタラクティブな、、市政府と市民にとって利便性のある資料になります。

「被害軽減計画」は市民側の情報源になる上に、対応側の人員や組織の教育と準備体制の向上のためにもなります。

繰り返し起こる災害に対して、繰り返し実施される復旧・復興の単純な循環サイクルを避け、被害軽減に注力することでより費用対効果が高くなります。ニューヨーク市危機管理局(NYCEM)の資料によると、被害軽減に一ドルを投入すると復旧・復興の約六ドルが節約できるといわれています。そして、何よりも、一番大切なこととして、被害軽減によって住民を危険や苦しみから守ることができます。

NYCの「被害軽減計画」は専門家用のおよそ600ページの大きな資料なので、一般市民や市民団体などに対するよりコンパクトな約150ページの「リスクランドスケープ」というバージョンも用意されています。同市が2009年に初めての「被害軽減計画」を発表した後、2014年のアップデートをオンラインにアップロードしたことは先駆的でした。2019年版の計画はこちら、リスクランドスケープはこちら。また、2019年とそれ以前のものはこちら

政府機関・市民団体・民間セクター・文化機関・学界などを代表する約200名の参加者が協力し、一般市民のフィードバックも取り入れて計画の更新版を作成しました。すべては緊急事態準備と対応に重要な役割を持つステークホルダー・利害関係者です。計画自体の作成以外に、そのプロセスによる効果は多数あります。課題や対応方法に関する意思疎通の上に、緊急事態に対応する人員の仕事上の人間関係を 築き上げて強化することもあります。こういう関係がすでにできていると実際の緊急対応の時にうまく一緒に仕事ができる可能性が高くなりますが、ないと協力の妨げとなる場合が多いです。

構造

「被害軽減計画」の冒頭に、内容・作成の目的・作成者などの説明があります。

それから、「危機環境」のセクションが市の状況を自然・社会・構造物・将来の四つの観点から紹介し、計画の作成に影響を及ぼす、また計画によって対処すべき要素や状況を詳しく説明します。

その次、「危機のプロフィール」のセクションが一番重大な危機をリストアップします。これは:

・海岸浸食
・沿岸風水
・干ばつ
・地震
・猛暑
・暴風
・洪水
・大気汚染
・冬の荒天
・非自然

大半の項目が長年変わっていませんが、一部の項目に変更(統合や分離等)があります。例えば、2009年の初めての計画に取り上げられたダムの崩壊・地すべり・陥没・雹・山火事や2014年に一つの項目とされたパンデミックインフルエンザが後のバージョンから外されました。サイバー攻撃が2019年版に独自の項目として含まれていましたが、2024年版には非自然のカテゴリに含まれています。また、大気汚染が2024年に初めて猛暑から分けられ、独自のカテゴリになっています。皮肉にも、パンデミックウィルスがリストから外されてから世界的な問題になりました。

しかし、「危機」の範囲はほとんど変わらず、このリストにニューヨーク市がオールハザード型危機管理体制を実施していることが反映されています。 

緊急事態に市がどういう風に実際に対応するかということが別な計画や事業に含まれています。各部署や組織が独自の作業手順・実施要領を構成する義務があり、多数の部署の対応活動がある場合、危機管理局によって調整されます。問題によってリードを取る部署が決まり(警察・消防局・環境局など)、危機管理局の役割はあくまでも情報提供や活動の調整。作業手順・実施要領の例として、危機管理局が活用する「気象災害対策大綱」があります。(ご参考

被害軽減の面では、以前のレポートで紹介したニューヨーク周辺の沿岸強靭化事業が沿岸暴風雨被害軽減対策の一例となります。この準備以外に、各機関が沿岸暴風雨の際にどういう活動をるかが別な作業手順にあります。したがって、市の各部署や電力会社・コミュニティグループなどが自分の独自の手順を作成します。

「危機のプロフィール」のセクションの次に「軽減」のセクションがあります。この中に、「戦略」・「能力」・「行動」の三つのページがあります。戦略と能力の課題で、かなり大まかに市が実施している軽減事業や規制・行政・技術・その他の危機対応の道具が載っています。行動のページに、インターアクティブマップがあります。これを使って市全体の多数のプロジェクトを個別に選択し、詳細を調べることができます。どういう風に市が直面している危機に対してインフラ整備等を実施していることや事業の規模が理解できるように大切な参考資料です。

「道具」のセクションに「危機の歴史と結果の道具」と「コミュニティのリスクアセスメント」の二つのインタアクティブのページがあります。「危機の歴史と結果の道具」に様々なフィルターがあり、これを利用すると以前に起こった災害の詳細ともたらした被害が調べられます。

「コミュニティリスクアセスメント」によって特定の住所あるいは区域を設定し、その周辺のリスクを地図あるいは文書で調べることができます。また、被害軽減のためにとれる対策も紹介されます。市が提供する被害の準備と軽減のプログラムへのリンクもあります。だれでもアクセスできる道具で、文字通りのコミュニティのリソースです。

最後に

「被害軽減計画」の最新版が5月に発表される予定です。3月5日に長期にわたって広く宣伝された市民のレビュープロセスが終わり、発表まで最後の調整が行われます。ニューヨーク市が直面しているチャレンジにさらに効果的に対応できるように、同計画がもう一つのリソースになることが期待されています。

マスユーギラム

上席調査員

2024年4月