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ニュ-ヨーク周辺の沿岸強靭化事業の最新情報

2019年12月の前回 のアップデート(英語版のみ) 以降、コロナ禍にもかかわらず、ニューヨーク市の周辺の沿岸の強靭化がかなり進んできました。もともとの「BIG U」という提案がいくつものセクションに分けられ、セクションによって、提案の作成、計画の発表、あるいは実行段階となっています。大まかにいうと、East Side Coastal Resiliency (ESCR)とLower Manhattan Coastal Resiliency (LMCR)とU.S. Army Corps of Engineers Harbors and Tributaries Study (USACE HATS) (米陸軍工兵隊の港湾河川調査)があります。後者は、マンハッタンの東部のESCRと南部のLMCRと重複するところがありますが、もっと広い範囲をカバーします。ESCRは実施の詳細が多少変わっても計画自体があまり変わっていませんが、LMCRは以下で紹介されるTwo Bridges(二つの橋)などのセクションに分けられています。

以下は、各セクションの2023年現在の進捗情報です。


スタイベセントコーブとアッサーレビプレーグラウンドの周辺の工事

マンハッタンの東部にあるEast Side Coastal Resiliency (ESCR)は、北端の12ストリートから南端のジャックソンストリートまでの間を占めるプロジェクトで、三つのセクションに区分けされ、工事が2021年から段階的に実施されています。現在、北部にあるアッサーレビプレーグラウンドとスタイベセントコーブパークの周辺の工事が半分ぐらいできあがり、防水壁や幾つかのゲート、ランドスケーピング等が完成されています。これは2024年の後半に完成される予定です。その南部にはイーストリバーパークがあります。ESCRの大半は同公園全体の排除、嵩上げ、再整備の事業です。以前のレポートに伝えたように、これが一番論争を呼び起こしたプロジェクトですが、現在は工事中で、南の半分が2024年の終わりごろ完成される予定です。それが終わりに近づくと、北の半分の工事が始まります。それが多分、今年中に始まり、2026年に出来上がるでしょう。周りのコミュニティとの約束にしたがって、工事中の間、公園の最低42パーセントが利用できるように工事を進ませます。スタイベセントコーブパークの裏側にある「ぺラレルコンベヤンス」という部分のインフラ整備も2024年の終わりごろ完成される予定です。ESCRの防水壁などが北側にある病院の沿岸強靭化プロジェクトとつながり、それのさらに北のほうに、最終的に、24ストリートから42ストリートまでの堤防や防水壁によりイーストサイドの防護ができます。堤防と防水壁の計画が後述の米陸軍工兵隊の提案に含まれています。しかし、現在、34ストリートから北へ延びる区域が(他のセクションと同様に)依然と変わらなく危機にさらされています。(詳細をここ で見てください。)


臨時のヘスコバリアとツーブリッジェスの工事現場

ESCRより南へ下がると、 Brooklyn Bridge – Montgomery Coastal Resilience (BMCR)があります。ブルックリンブリッジとマンハッタンブリッジがマンハッタン地区に入るところにあるTwo Bridges(二つの橋)というコミュニティを守るセクションがあり、FDR Driveの高架高速道の下に緊急に備えて配備する部分と固定している部分が歩道の町側に設置される予定です。しかし、現在は臨時のヘスコバリアと工事中のセクションしかありません。工事が2026年の後半に終わる予定です。高架道が上にあり、様々なインフラがまた地下にあるとともに、建物と水の間が狭いので、こことさらに南にあるセクションが技術的に難しいです。これらの課題は、南部の次のセクション、つまりシーポートと金融地区を通過する部分でさらに厳しくなります。 (詳細をここ で見てください。)



FiDiのFDR Driveの高架部分と私有地の防水壁とゲート

The Financial District and Seaport Coastal Resilience (FDSCR) はいろんな面で特に難しいです。第一に、北部のセクションがSouth Street Seaportという船と港の博物館で、川から遮断することができないような施設です。それより南のほうには高架道路となっているFDR Driveが地上に降りてEast Riverのすぐ隣に走るので、道路の下にも脇にもスペースがなく、地下にもトンネルや他の重要なインフラがあります。それから、南端のほうはスタテンアイランドとガバナーズアイランッドのフェリー乗り場があります。これも水に面して、当然、遮断することができません。最近、ニューヨーク市の経済開発公社(EDC)と市長の気候強靭性室が共同作成のThe Financial District and Seaport Climate Resilience Master Planという沿岸強靭化の計画を発表しました。この提案は革新的なデザインで、従来の埋め立てではなく、East Riverに最大で500フィート(約150メートル)まで海岸線を延長するというものです。このプロジェクトでは、単に埋め立てを追加するのではなく、高水位から保護するための高架機能、公園の設備、East Riverの自然環境の強化、アクセシピリティの向上、シーポートとフェリー施設の強化、そして新たな防衛線の背後の通りから洪水を防ぐための内陸部の恒久性のある雨水インフラの設置など、複雑な多層的な海岸防衛を作り出すことを目指しています。現在、計画の正確な形を決め、規制との関係を調査しています。今年の8月までに二つの最終的な提案を提供する予定です。炭素隔離のコンクリートを利用したりすることもこの計画に含めようとしています。巨大なプロジェクトで、現在、コストは50-70億米ドル(約6,820億円)、工事が15年から20年の間かかると想定されています。できるまで、間に合わせて、小規模な防水対策が地主や市によって実施されています。 (詳細を ここここ で見てください。)


バッテリプラモナードとバッテリプレースケープ

上記のFDSCRの南・西端がThe Battery Coastal Resilience (BCR) と繋がります。BCRの計画によると、バーテリーパークの水際のプロメナードを約2メートル嵩上げし、その裏側に、公園に塩水に強い設備や植物を入れ替えたりする予定です。排水の機能も強化します。この新しい施設の第一弾はバーテリプレースケープで、塩水や合流式下水道越流に強い遊び場と同時にグリンインフラの役割を果たします。植木物の間に、地下の貯水タンクへの排水溝があります。将来的に、公園の内側にも高潮に対する防水の設備を設置しなければなりません。しかし、その部分は現在の計画に含まれていますん。この防水の設備が、結局、FiDiの設備から延ばされるもので、公園の東側を守ります。公園の北側は、以下で紹介されるBattery Park Cityのワーグナーパークの設備とつながります。EDCによると、2023年の秋までにデザインが完成されるでしょう。進行中のプロメナードの嵩上げ工事が二つのセクションに分けられ、2025年に完成される見込みです。現在、劣化している隔壁の南半分の修復工事が行われています。問題は、フェリー乗り場とプロメナードの間にある沿岸警備隊の建物です。連邦政府の所有地で、沿岸警備隊が譲ることも改築することも拒否しているそうです。このままでは、他のところが強化されても、ギャップが残り、公園が港に露出したままで、危機にさらされっぱなしです。(詳細を ここここ で見てください。)


Battery Park Cityのプロメナードの南端。道路照明の青い部分は、2050年までに予測されている高潮の最高点。

ハドソン川の沿岸にあるBattery Park City Resiliency (BPCR)がBCRの北側にあります。南BPCR・北西BPCR・野球グラウンドの三つのセクションがあり、防水壁や嵩上げの部分と、野球グラウンドの周辺に脱水のインフラが整備されます。三つのセクションがあるというのは、場所によって状況がかなり違います。南のほうでは、ワグナーパークを嵩上げし、そこから防水壁などをボーリングリン(Bowling Green)まで設置してバーテリーパークの北側を守ります。将来的に、これが上記のFiDiのセクションに結びつきます。ワグナーパークよりさらに北のほうには、水際の近くに密集している建物と細長い公園やマリーナがあります。野球グランドが内陸にあるけれど、周りより低く、ハリケーンサンディの時にひどく冠水しました。グランドの工事がほとんどできたそうです。ワグナーパークの工事が始まったけれど、ある住民が訴訟を起こし、結果が出るまで工事が停止されています。 (詳細を ここ で見てください。)

BPRC以北の区域が上記のU.S. Army Corps of Engineers Harbors and Tributaries Study (USACE HATS)(米陸軍工兵隊の港湾河川調査)に含まれています。同調査は途中で予算がなくなって一時期停止されましたが、2019年に再び調査を再開し、2022年に5つの代替案を発表しました。以前、HATSが最も劇的な提案によって話題を呼びました。これは代替案2で、ベニス同様、巨大な防水バリアを使ってニューヨーク湾を高波から守る仕組みでした。一番大きな部分は、陸上と水中にニュージャジー州のロングブランチからニューヨーク州のファーロカウェイまで続き、もう一つのもっと小規模のバリアがロングアイランドサウンドのスログスネック海峡に設置されます。しかし、最終的に、同提案ではなく、代替案3Bを「臨時決定案」として提案しました。すべての提案の中からこれが推薦されるわけです。公共のコメントの段階を2023年3月31日(もともとは3月7日の締め切りでしたが延長されました)に終了し、これから、次の段階に入ります。


米陸軍工兵隊の港湾河川調査の代替案3B

臨時決定案は「代替案3B, 多数区域の防水バリアと陸上対策」と題されています。東側にロカウェー半島からフラシング湾まで、また、西側にハドスン川とニューアーク湾に囲まれているニューヨーク湾やハドソン川・イーストリバー等の沿岸を高潮から守る巨大な水中の防水バリアや陸上の防水壁・植木鉢・堤防などとの提案です。ニュージャージー州のジャジー市とニューアーク市もこれによって守られます。前述の通り、マンハッタンでは、多少ESCRとLMCRとの重複がありますが、ほとんどの部分がその区域以外に設置され、東側のESCRから42ストリートまで、西側のLMCRから34ストリートまで町を守ります。各提案の費用対効果分析の結果を比較し、代替案3Bは期待できる効果として一番経済的と判断され、選ばれました。現在、同提案がおよそ52億ドル(約7.3兆円)かかると予測されていますが、絶対と言っていいほど値段が上昇するでしょう。(詳細を ここ, ここ, と ここ で見てください。)

各沿岸強靭化計画は海面上昇と最悪の場合の高波から守る要素が含まれています。2080年までにニューヨーク周辺の海抜の低いところに晴天でも海面上昇と地盤沈下によるかなりの冠水が予測されています。それで、ほとんどの計画が第一に日常的に海面上昇から守る嵩上げなどの上に第二に嵐の時の高波からさらに守る防護が含まれています。最悪の場合、公園の植物や施設が塩水に損なわれても、住民が守られます。HATSの提案に対する不安の一つは、高波に対する防水対策ばかりで、海面上昇やCSO(合流式下水道越流)対策が全くありません。これ以外に問題がありますが、緊急時の防護だけではなく、日常的な問題の対策も含まないといけません。こういうことはフィードバックとレビューのプロセスで解決するしかありません。その段階が少なくとも2024年6月まで続く予定です。

スタテンアイランドの周辺にも2つの大きなプロジェクトがあります。一つは、「リビングブレクウォーター」(生きる防波堤)です。これは人工的な礁を作って牡蠣を植え込むことによって昔の生態系を蘇らせ、海岸を波から守り、完全に冠水が避けられなくても、被害が和らげられる仕組みです。現在、工事中です。(詳細を ここここ で見てください。)

もう一つのプロジェクトは、「管理された撤退」 です。この場合は、場所によって、ニューヨーク州が私有地や建物を買い上げ、建築物を解体し、住民にもっと安全な所に住んでもらう仕組みです。ハリケーンサンディにかなりの打撃を受けたオークウードビーチという地区(三名死亡・全・半壊の住宅多数)の住民ほぼ全員がこれで移住しました。移住を拒否している家庭がまだ何件ありますが、それもおそらく時間の問題です。 (詳細を ここここ で見てください。)

この課題に関する一番いい情報源はRebuild by Designという団体のウェブサイトです。英語しかありませんが、News &EventsのタブをクリックするとEvents and Updatesのページに行くとこのレポートを書くに参考にした情報のほとんどがアクセスできます。さらに、他の沿岸強靭化に関する情報もあります。

ハリケーンサンディの襲来からもうすぐ11年。長く感じても、インフラ整備のことを考えると、アッという間です。その目で見ると、ニュ-ヨーク市とその周辺ではもうすでに気候変動の影響による水の危機への対策が著しく進んでいることが感心です。しかし、これからまだ何十年もの努力が必要で、その間、たくさんのところが危機にさらされ、安心できません。高波や海面上昇に防護がないところが残っている限り、どこも危険です。

マスユーギラム
上席調査員
2023年7月12日