日本の地方自治体とニューヨーク州における予算編成プロセスの比較について(1)

 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は5月3日、ワクチン接種の拡大と新型コロナウイルスの感染者数減少に伴い、隣接するニュージャージー州とコネティカット州とともに、ビジネスに課している収容制限を5月19日からほぼ全て解除すると発表した。
 

【5月19日から解除される主な内容は、以下のとおり(ニューヨーク州のみ記載)】
・住宅での屋内集会の人数制限を10人から50人に引き上げ、屋外の場合は現行の25人から制限を解除
・住宅でない場所での集まりやイベントの人数制限は、屋内は19日に100人から250人に引き上げ、屋外の場合は10日に200人から500人に引き上げ
・大規模な屋内会場の収容上限を30%、大規模な屋外会場の収容上限を33%に引き上げ
・ジム、フィットネス、美理容室、オフィスなどの収容上限を解除 

 なお、ニューヨーク市の地下鉄は、5月16日まで清掃のため午前2時から午前4時までは運休となっていたが、5月17日から24時間営業を再開している。また、飲食店の終業時間の規制については、屋外席は5月7日に解除され、屋内席は5月31日に解除される。
 

 ニューヨーク州における上記のような段階的な制限解除の決定等は、州知事の判断によって随時実施されてきた。
 法制度上、日本では、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、各都道府県知事は、外出自粛の期間や範囲、休業を要請・解除する施設などを判断する権限を持つことになる。

 一方、ニューヨーク州では、新型コロナウイルス感染症を含む各種災害が発生した際には、州執行部法(Executive Law)に基づき、知事は非常事態を宣言し、事態に対処するための包括的な権限を得て、州憲法および合衆国憲法・連邦法に抵触しない範囲で既存の法律を停止、私権の制限を実施する行政命令※¹を発出できることになる。  

※¹ニューヨーク州議会は、当該権限をいつでも終了させる権限を持っており、2021年3月に非常事態宣言に係る州執行部法(Executive Law)を改正する法案を提出した。この新法案の下では、感染拡大の抑制やワクチン接種の普及に必要な新たな行政命令の発令が制限され、発令や延長などには議会での審議が必要となり、既存の行政命令については「公衆衛生上重要な場合」にのみ延長が許されることとなった。
 

 以上の観点からも、日本の地方自治体とニューヨーク州における知事と議会の各権限には、類似しているところ、大きく異なっているところが混在しており、これは予算の編成プロセスにおいても同様である。
  今回の記事では、日本の地方自治体とニューヨーク州の予算編成プロセスにおける長と議会の権限を比較する。

【予算編成プロセスにおける長と議会の権限】
 
日本の地方公共団体においては、予算を定めることは議会の議決事件であり、予算を調製し、執行することは長の担当事務とされ、長は毎会計年度(4月1日~翌年3月31日)に、予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならないとされている。
 また、各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって、充てなければならないとされており(会計年度独立の原則)、一会計年度における一切の収入および支出は全てこれを歳入歳出予算に充てなければならない(総計予算主義の原則)とされている。

 議会は、予算を審議し、必要に応じて修正※²して議決する権限を有しているものの、各議員は長のように予算案を議会に提出する権限は有していない。なお、予算案が議会において否決された場合、長は再度の審議及び議決を議会に求めることができるとされている。

 一方、ニューヨーク州においては、州憲法・法令により、州政府の各省長官は、知事の要求する形式・時期に次年度(日本と同様、会計年度は4月1日~翌年3月31日)の見積もりを知事に提供し、知事は予算案を調製した上で、州議会に執行予算、州の5年間の財務計画・資本計画、および執行予算を裏付ける財務情報を提出することになっている※³。
  州議会は、主に各院の財政委員会を通じて、知事の歳出案及び歳入の見積もりを分析し、主要なプログラムに関する公聴会を開催し、予算局および他の州機関にさらなる情報を求め、そのレビューに基づき、知事の提出した歳出予算法案を修正※⁴していくことができる。
 そして、知事と州議会が折衝を行い、最終的な予算を決定する、というのが大きな流れである。なお、知事は議会が修正した法案を拒否することができるが、議会は3分の2以上の投票で、知事の拒否権をさらに覆すことができるとされている。

※²長の予算発案権を侵さない範囲で増額して議決できる。
※³多くの州においては、知事は予算編成の方針(重要施策等)を示すのみであり、予算編成自体は議会が行っている。
※⁴ニューヨーク州議会は、知事の提出した歳出予算法案について、項目を削除・削減すること以外、修正できない。ただし、追加の事項が最初の歳出予算法案の項目とは分離・区分され、各々に単一の目的が附されている場合、歳出項目を追加することができるが、知事による個別項目に係る拒否権の行使の対象となる。

 日本の地方自治体と異なる点を挙げるとすれば、知事との予算折衝時に、特にその時々の時世や知事と議会との政治的パワーバランスによって、州議会の意見が、各項目の数値を大きく変える可能性があるという点である。次回の記事では、特にその影響が大きかった、2022年度(2021年4月~2022年3月)予算編成時の州議会の意見をピックアップしながら、主にどのように当初の知事案が変わったかを見ていきたい。

(柿本所長補佐 総務省派遣)