急速に進むワクチン接種(その1)

 ニューヨーク州ではCovidワクチン接種の対象が急速に拡大している。昨年12月14日に接種が開始されて以降、これまで医療従事者、高齢者、基礎疾患を有する者、不特定多数と接触機会のあるエッセンシャルワーカー等が対象とされてきたところであり、4月1日までに約960万回の接種が行われ、人口約2千万人のニューヨーク州民の30%以上が少なくとも1回目の接種を受けた。特定の職業や健康状態に該当しない者で接種対象となる年齢要件は、75歳、65歳、60歳、50歳と次第に下がり、3月30日からは30歳以上の全ての者が対象となり、4月6日からは16歳以上に拡大される予定である。
 さて、要件を満たした上で、どのようにして接種を受けられるのか。自ら実際に予約をした経験も踏まえて記載する。

○接種場
 州及び市による公設の会場(ヤンキース・メッツのスタジアムや、ジャヴィッツセンター(コンベンションセンター)等大規模なものから、コミュニティセンターや教会等を利用した地元住民向けのものまで様々)のほか、薬局、病院等に多数設置されている。

 <NY市内の接種場>


○費用
 公費で負担され無料である。なお、加入している健康保険の情報を求められることがあるが、調査目的であり保険によりカバーされるわけではない。

○接種までの流れ
 接種要件を満たした者は、自らウェブサイトから予約をする(電話予約もあるが、ウェブからの予約が推奨される)。クーポンや案内が送られてくることはない。州や市は接種場の一覧のほか、現時点で予約可能な接種場の一覧を提供しており(※1)、どの接種場でどの種類のワクチンが提供されているか(※2)も含めて明らかにされている。ただし現時点では需要に更新のスピードが追い付いておらず、予約可能として表示されても、申し込みを進めていくと既に誰かが予約した後であることが大半である。また、予約サイトは接種場の設置者ごとに別のシステムであり、それぞれ同じような情報を入力した後に”No available appointment“と表示されることが続くと、思わず溜息をつかずにはいられない。

 <予約不可の山・・・>

 時折大規模に予約枠がリリースされることがあり、そのタイミングを逃さずにアクセスすれば、比較的容易に枠を押さえることができる。動きは非常に早く、千単位で新たな枠が出てきても1,2時間のうちに埋まってしまう。また、日を選ばなければ予約はさほど難しくはないが、特定の日の特定の時間を押さえようとすると、その日・時間が表示されるまで何度もリロードを繰り返すことになる。
 このように、予約を取るためには早く接種を受けたいという意思と根気と情報収集能力、そして時間的なフレキシビリティが求められるので、1つでも欠ける人にとってはなかなか厳しい仕組みである。また、高齢者をはじめ、デジタルが苦手な、あるいはインターネットへのアクセスのない人にとっては非常にハードルが高いといえる。

 ※1 https://vaccinefinder.nyc.gov/ 
 ※2 現時点では、ファイザー社、モデルナ社、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の3種類のワクチンが認可されている。


○ボランティアによる支援
 進展は早いが住民にやさしい仕組みとは言い難いニューヨーク州のワクチン接種であるが、誰もがワクチンにアクセスできるよう、ボランティアベースで様々な支援が行われている。そのうち主な2つを紹介する。

・予約可能な接種場の情報提供
 上記のとおり、予約を取る上で、新たに予約枠が多数出てきたタイミングを逃さずにアクセスすることが肝要であるが、その情報を得るのに有益なのが、予約の空き情報を集約して提供するウェブサイトTurboVax(https://www.turbovax.info/)である。
 このサイトは、31歳のソフトウェアエンジニアが自力で2週間弱で開発したものである。自分の母親のためにワクチン接種の予約を取ろうとしたところ、あまりにも多数のサイトをチェックする必要があるのに不便を感じたことから、ニューヨーク州及び主要な市の予約可能情報を集約するサイトを立ち上げた。まとまった数の新規枠が生じると、上記サイト及びツイッター(@turbovax)にその情報が掲載される仕組みとなっており、筆者も実際このサイトの情報には大変お世話になった。

・高齢者等の予約支援
 デジタルに強くない高齢者等に代わって予約の代行等の支援を行うボランティアグループが多数立ち上がっている。ボランティアたちは”Vaccine angels”と呼ばれ、予約の代行や予約枠の空き状況の情報提供などを行っている。New York/ Connecticut Vaccine HuntersはFacebook上で活動するグループであり、2万2千人を超えるメンバーが参加している。元々は、ワクチンの余りが廃棄されていることを聞いて、無駄を出さないための情報交換の場として立ち上げられたが、現在は支援のプラットフォームとして、また、いわゆる口コミの集まる場として活発に情報交換が行われている。

○今後の見通し
 現時点ではワクチンの需要が供給をはるかに上回っているため上記のような状況であり、これまでのところ接種は順調に進捗しているが、ある程度の進展をみた後は、接種をしようとしない人(個人の考えに基づく場合と、情報その他の問題による場合と両方あり得る)への対応が課題となると考えられる。感染症は個人の努力だけでは克服し難いものであるが、「社会を挙げた」対応は米国の個人主義的な考え方と相容れない部分も少なくない。これまでのところ、米国においてワクチン接種は世界的にみても相当早く進んでいる方であるが、それが新型コロナウイルスの克服につながるかどうかは、未だ予断を許さないものと考えられる。


急速に進むワクチン接種(その2):実際に接種を受けに行った際の様子、ワクチンパスポートについて。
急速に進むワクチン接種(その3):ワクチン接種の進め方の変化、ワクチンの余りが出た場合の対応について。


 【参考】
 https://www.nytimes.com/2021/02/09/nyregion/vaccine-website-appointment-nyc.html 
 https://mashable.com/article/how-to-help-people-get-vaccines/