2022年1月1日 エリック・アダムス新ニューヨーク市長就任

 2022年1月1日、第110代目のニューヨーク市長として、エリック・アダムス氏が就任した。同氏は、昨年6月の民主党予備選挙で接戦を制して、民主党候補として選ばれ、11月2日に行われた本選挙において共和党候補のカーティス・スリワ氏を破り、ニューヨーク市長に当選した。黒人のニューヨーク市長としては2人目となる。
 [市長のバイオグラフィー(ニューヨーク市ホームページより)]

 直近までブルックリン区長を務めていた同氏は、元ニューヨーク市警(NYPD)や州上院議員の経歴を持っており、選挙戦においては、大きな争点の1つであったニューヨーク市警改革やホームレスの増加による治安問題等の公共の安全に関して、元警察官のキャリアを活かした取組を主張していた。ニューヨーク市の市長選挙については、当事務所のブログでも紹介しているため、下記のリンク先を参考にしていただきたい。
(リンク先)
 ・ニューヨーク次期市長選の候補者について
 ・ニューヨーク市長選における「NYPD改革と公共の安全」~他人事ではない治安問題~
 本稿では、新市長就任後の取組について、ニューヨーク市の報道資料、地元メディアなどの情報でフォーカスされているものをいくつかピックアップして紹介していくことにする。
 ※以下同氏を「アダムス市長」と表記する。

【教育】
・公立学校の対面授業(1月3日)
 アダムス市長の就任後直面した大きな課題の1つは、オミクロン株による感染者の拡大に伴う公立学校への対応である。ニューヨーク市では2021年12月中旬よりコロナ感染者数が急増し、就任日である1月1日には、ニューヨーク市内で4万人/日を超える感染者が発生している状況であった。
 その状況下で冬休み明けの公立学校再開をどのように対応するのかが注目されていたが、アダムス市長は昨年の学校内における感染率の低さ、リモート学習が低所得者世帯やコミュニティへ与える負担、オミクロン株の重症化率の低さなどを考慮した上で、学校を開校し、対面授業を行うこととした。そのための対策として、新型コロナウイルス自宅検査キットを、学校を通じて各家庭に配布し、児童が自宅でテストを実施し、陰性であれば学校に通うことができることとした。
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/001-22/transcript-mayor-adams-chancellor-banks-deliver-remarks-concourse-village-elementary-school#/0
(参考ホームページ:https://www.schools.nyc.gov/school-life/health-and-wellness/covid-information/home-rapid-test-kits

・2022年夏の「サマーユースエンプロイメントプログラム」の過去最大規模での実施を発表(2月15日)
 アダムス市長は、2022年夏に14歳~24歳の若者向けに行われる「Summer Youth Employment Program(SYEP)」に7900万ドルの予算措置を講じ、過去最大となる100,000件のプログラムを提供すると発表した。これは夏休みの期間を利用して、対象となる若者に有給での職業体験の機会を提供するプログラムである。
 SYEP自体の主たる目的は、若者のキャリア形成支援だが、アダムス市長はこのプログラム拡大のもう1つの目的として、プログラム参加者の逮捕率が非参加者に比べて低いという調査結果に着目し、若者の犯罪抑止を掲げている。これは同氏が市長選挙の際に掲げた「銃による暴力事件の防止」と密接に関連した取組となっている。
 同プログラムの申請期間は、3月1日(特別枠は2月14日)から4月22日までとなっている。

   [ニューヨーク市青少年地域開発局のホームページより]
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/081-22/new-york-city-mayor-eric-adams-record-100-000-summer-youth-employment-opportunities#/0

・3月7日よりニューヨーク市内公立学校屋内でのマスク着用義務の解除(2月27日・3月4日)
 アダムス市長は、3月4日時点の感染状況を踏まえて、ニューヨーク市内の公立学校K-12Grade(日本の幼稚園年長~高校3年生に相当)に対する敷地内でのマスク着用義務を3月7日より解除することとした。一方で屋内での換気、症状がある児童・生徒への登校禁止、テストキットの配布といった措置は継続される。また、ワクチン接種の対象外である5歳以下の子供が通う学校及び通学プログラムは引き続きマスクの着用が義務付けられている。
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/096-22/mayor-adams-on-mask-mandates-schools-vaccine-mandates-across-nyc)
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/108-22/as-covid-cases-plummet-vaccination-rates-reach-new-heights-mayor-adams-next-phase-of#/0

【公共の安全】
・「銃暴力からの脱却に向けた青写真」を発表(1月24日)
 アダムス市長は、銃暴力からの脱却に向けた今後のロードマップとなる「THE BLUEPRINT TO END GUN VIOLENCE」を発表した。これは、市長選挙時からNYPD出身であるアダムス市長が公約として掲げていた「公共の安全」に関する取組の1つとなる。
 銃暴力からの脱却に向けた当面の取組として、

  •  ニューヨーク市警による銃暴力取締ユニットの強化、取締り重点地区の設定、外部からの銃の持ち込みに対するパトロールの強化、FBI等連邦政府機関との連携強化等
  • 「サマーユースエンプロイメントプログラム(前述参照)」や「里親制度プログラム」等の拡充による青少年の非行防止
  •  メンタルヘルスシステムの再構築(重点項目の見直しによるリソースの再分配)
  •  市の各部局に銃暴力専用窓口となるリエゾンの設置
  •  地域企業とのパートナーシップによる犯罪情報提供者への報奨金プログラムの拡充
  •  銃の密売に対する罰則強化の法案の提出
  •  司法機関との連携
などを掲げている。

 [ニューヨーク市ホームページより]
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/045-22/mayor-adams-releases-blueprint-end-gun-violence-new-york-city#/0

・「地下鉄安全計画」の発表(2月18日)
 アダムス市長は、地下鉄の安全性を向上させるための計画として「Subway Safety Plan」を発表した。これは、主に地下鉄の車両や構内で生活するホームレスや精神疾患者への対応に焦点を当てている。この計画は、地下鉄内での犯罪の発生を抑止するという公共の安全への取組を行うとともに、ホームレスや精神疾患者を保護・サポートし、医療の提供や住宅確保といったアウトリーチプログラムを拡充することにより、不安定な生活状況からの脱却を目指すという公衆衛生の取組を統合して行うシームレスな内容となっている。
 主な取組内容として、

  •  保健精神衛生局やニューヨーク市警、ホームレスサービス局など複数の部局を連結させたチームの発足
  •  911通報のメンタルヘルス対応チームとして試験導入されている「B-HEARD」チームの拡充
  •  ニューヨーク市内に7か所設置されているホームレスの生活支援や医療サポートなどを行う「Drop-in-Centers」の拡充を検討
  •  ホームレスサービス局が所管するホームレス向け施設での医療サービスの提供を導入
  •  ホームレスが支援住宅に入居する際の各種手続の合理化・簡略化
  •  精神医療サービス向上のための州政府への働きかけ
などを掲げている。

 [ニューヨーク市ホームページより]
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/087-22/mayor-adams-releases-subway-safety-plan-says-safe-subway-prerequisite-new-york-city-s#/0

【経済】
・3月7日よりレストラン等の屋内施設での予防接種証明の提示の義務付け解除(3月4日)
 アダムス市長は、3月4日時点の感染状況を踏まえて、レストラン、フィットネス施設、エンターテイメントスペースなどの屋内施設での予防接種証明の提示を3月7日より解除する旨を発表した。
 この義務付け措置は「Key to NYC」と呼ばれる新型コロナウイルス感染予防を強化するための措置として、前デブラシオ市長が昨年8月に実施したものの1つであるが、この措置を停止することにより、ビジネスの回復を後押しする狙いである。一方で各企業が予防接種証明の提示やマスクの着用義務付けを任意に求めることは可能としている。また、医療施設や公共交通機関等でのマスク着用義務や症状がある場合の自宅待機を求める公衆衛生上の措置は引き続き継続される。
 義務付けの解除に当たっては、今後の指針として「Covid-19 Alert Levels in NYC」という感染状況を4段階(レベル:低・中・高・非常に高い)で色分けし、現在がどの段階にあるか、その際の注意事項や想定される措置を示した新たな仕組みを発表した。今後、感染状況による段階の変化により、「Key to NYC」の再設定などが示されている。

 [ニューヨーク市ホームページより]
(参考ホームページ:https://www1.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/108-22/as-covid-cases-plummet-vaccination-rates-reach-new-heights-mayor-adams-next-phase-of#/0

【最後に】
 以上、アダムス市長の取組について紹介したが、市長選の際に強く主張していた公共の安全に関する取組については、いくつかの計画等をいち早く発表し、今後の施策についての展望を示している。その他の施策についても、今後何らかの形でその計画やビジョンが示されていくことになると思われるため、それらが実施段階に入り、その成果がどのように表れていくのか、今後のニューヨーク市の動向を注視していきたい。

(安浪所長補佐 熊本市派遣)