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ニューヨーク次期市長選の候補者について

 コロナ禍で打撃を受けた全米最大の都市ニューヨーク、その再生をかけた次期市長選として、民主党と共和党の予備選挙が6月22日、総選挙が11月2日に行われる。新型コロナウイルス、人種的・社会的不平等、銃犯罪の大幅な増加などで疲弊した市の予算を引き継ぐことになるにも関わらず、ビル・デ・ブラシオ市長の後継者を目指し、これまでにないほどの混戦模様となっている。また、この度の予備選挙および特別選挙において、有権者が5人までの候補者を優先順位付けできるRCV方式がニューヨーク市において初めて導入されており、一層注目が集まっている。

 本稿では、現在立候補中の候補者を下記の通り紹介する。なお、すべて執筆時時点(4月末)の情報を基に記載していることをご留意願いたい。

【民主党】

Andrew Yang , 46歳

元大統領候補、元非営利団体役員

 2020年の大統領選挙で民主党の大統領候補に立候補したヤン氏は、テクノロジー企業家であり、Humanity Forward(※1) の創業者でもある。実業家で政治経験がないにも関わらず、知名度を背景に他の候補者を圧倒しており、現在最も有力な候補者の1人となっている。同氏は、低所得のニューヨーカー50万人に年間2,000ドルを支給するというユニバーサル・ベーシック・インカムの提唱や、ガバナーズアイランド(マンハッタンのすぐ南に位置する島)へのカジノの誘致など、大胆なアイデアで注目を集めている。パンデミックの際に家族を市外に移したことや、大統領選挙キャンペーンにおけるスタッフ間での性差別が明らかになったこと(参考:DAYLY BEAST)、無許可の露天商を取り締まるように求める発言等(参考:NEWYORK POST)で批判を受けたが、民主党支持者のうち26%が彼の立候補を支持しているという調査結果(参考:Data for Progress社世論調査)が出ており、2位のアダムス氏の13%の約2倍となっている。また、ヤン氏は大学卒の有権者と非大学卒の有権者の両方でリードしており、市の黒人有権者では25-22%の僅差でアダムス氏を上回っている(参考:NEWYORK POST)。同氏が当選すれば初のアジア系市長となる。

(※1)ユニバーサル・ベーシック・インカムの普及をサポートする非営利団体

Eric Adams , 60歳

ブルックリン区長、元ニューヨーク市警察官

 アダムス氏は、ブルーカラーのニューヨーカーとして、市との深いつながりと行政での経験を生かして出馬する。元警察官として警察内部からの改革を提唱しており、ニューヨーク市警の現役・元黒人警官の擁護団体を共同で設立した経歴を持つ。同氏は、警察の残虐行為を鋭く批判しているが、「Defund the police(※2)」運動には賛同していない。2013年にブルックリン区長に就任する前は、2006年から4期にわたり、クラウンハイツ、ブラウンズビル、バークスローブ選出の州上院議員を務めた。いつ、どのように教育を受けるかを保護者が柔軟に選択できるように、学校を年中無休にすることを提案している。昨年、家賃高騰を招いている移住者に対して「アイオワに帰れ」と言ったように、その率直な物言いが問題になることもある。

(※2)2020年5月25日のジョージフロイド事件をきっかけに行われた、「警察の予算を削減しろ」と主張するアメリカ人種差別デモのスローガンの1つ。

Maya Wiley , 57歳

元ビル・デ・ブラシオ市長顧問、元Civilian Complaint Review Board委員長、元MSNBCアナリスト

 ワイリー氏は、今こそ黒人女性初の市長を選ぶべきだと主張している。刑事司法問題の専門家であり、MSNBC(ニュース専門放送局)に出演していた経歴から進歩主義者の間でも人気の高い彼女は、警察の改革と不平等の是正に力を入れたいと考えており、黒人、褐色人種、LGBTQ+、先住民、移民のコミュニティに対する組織的な差別に対抗することを訴えている。ニューヨークに10万人の雇用を創出するために100億ドルを投入する「ニューディール」を提案しており、当選した暁には、各機関の支出を調整し効率化を図る人物を新たに任命する予定である。他の候補者とは異なり、2013年の市長選でデ・ブラシオ氏を支援した市内最大の労働組合であるService Employees International Unionの「1199支部」の支援を受けている。

Scott M. Stringer , 60歳

市会計検査官、元マンハッタン区長

 ストリンガー氏は、長年にわたり政府機関で働いており、有能な会計監査官としての彼の経歴は、ニューヨークが必要としているものだと主張している。同氏は公立学校に通う子供の保護者でもあり、選挙戦では手頃な価格の住宅の提供や幼児教育に特に力を入れている。また、銃規制、女性のリプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)、LGBTQ+の権利、選挙資金の改革なども掲げている。様々な進歩的リーダーから支持を得ており、会計検査官としてニューヨーク市における選挙に勝利した経験がある唯一の候補者であるが、ニューヨーク地域では多くの黒人、ラテン系、女性の候補者が当選している中、白人である。その上、セクハラ疑惑も報道されており、有力な支持者が支援を再検討すると表明している。(参考:NEWYORK POST

Shaun Donovan , 55歳

元アメリカ合衆国住宅都市開発長官、元ホワイトハウス行政管理予算局長

 ドノバン氏は、オバマ政権とブルームバーグ市長下で働いた経験を持つベテランであり、連邦政府とのつながりを選挙戦の目玉にしている。彼は、すべてのニューヨーカーが家から15分以内で良い学校、新鮮な食べ物、交通機関、公園などを利用できるようにする「15分以内の地域」を作ることなどの政策案を発表している。また、5つの行政区の地方検事やニューヨーク市警と連携し、アジア人へのヘイトクライム防止に努めるとしている。(参考:New York Daily News

Raymond J. McGuire , 64歳

シティグループの元副会長

 2002年から2013年まで市長を務めた、同じくウォール街出身のマイケル・R・ブルームバーグ以来、現在のデ・ブラシオ市長下で発言力を失っていると感じている市の経済界のメンバーが、財政再建のためにファイナンスに精通した人物を求めてマクガイア氏を出馬させた。彼の選挙運動における最初の主要な提案は、50万人の良質な雇用を創出することであったが、進歩的な有権者は、ウォール街と結びついた同氏を警戒するかもしれない。

Dianne Morales , 53歳

元非営利団体役員

 モラレス氏は、貧困層や労働者階級のニューヨーカーの生活向上に重点を置いた選挙運動を行っている。多くのニューヨーカーに最低所得保証を提供すること、年間60億ドルの警察予算の半分を削減して社会サービスに充てること、公立学校の人種差別撤廃などを訴えている。

Kathryn Garcia , 51歳

元市衛生局長

 ガルシア氏は、危機に瀕した市を率いることができる経験豊富な経営者として立候補した。同氏は、市の巨大なゴミ処理施設を監督し、市政府の多くの人々から尊敬されている。また、デ・ブラシオ政権下ではパンデミックの際に、空腹のニューヨーカーに数百万食の食事を提供した。

Paperboy Prince , 28歳

元下院議員候補、ラッパー

 ブルックリン出身のプリンス氏は、ユニバーサル・ベーシック・インカムの実現、警察の廃止、そして家賃を払えない人のために未払いの家賃を免除するキャンペーン「Canceling Rent」を公約に掲げて出馬した。昨年、初のノンバイナリー(※3)議員を目指して出馬したが、ニディア・ベラスケス議員に敗れた経歴がある。

(※3)自分の性認識に男性か女性かという枠組みをあてはめようとしない考え方のこと。バイナリー(binary)とは二つの要素で構成されているものを指す言葉で、ジェンダーバイナリー(gender binary)に由来する。

Isaac Wright Jr. , 59歳

弁護士

 ライト氏は、1991年に薬物容疑で不当に有罪判決を受けた。ABCのテレビ番組「For Life」は彼の話をもとに作られており、番組のプロデューサーを務めている。地下鉄の市営化や公立学校の人種差別撤廃を訴えている。

Art Chang , 57歳

元JPモルガン・チェースの常務取締役

 有権者支援プログラムを運営していた彼は、生活に困っている人たちのために1歳から利用できるユニバーサル・デイケアを作りたいと考えている。

Joycelyn Taylor , 55歳

総合建設会社のチーフ・エグゼクティブ

 公営住宅で育った労働者階級のニューヨーカーとして出馬。家賃を払えないニューヨーカーの家賃を無料化したり、空いているオフィスビルをホームレスのための住宅に変えたりしたいと考えている。

Aaron Foldenauer , 45歳

弁護士

 ロウアー・マンハッタンの市議会に立候補したことがあり、マンハッタンの3番街を走る「自転車スーパーハイウェイ」など、環境改善のためのアイデアを打ち出している。

【共和党】

Curtis Sliwa , 66歳

ラジオ・トークショー・ホスト、ガーディアン・エンジェルス創設者

 スリワ氏は犯罪防止のために40年前に設立された、夜間ニューヨーク市を巡回する組織ガーディアン・エンジェルスの創設者である。彼は「ニューヨーク市を救おう」というスローガンを掲げて立候補しており、自身の選挙戦の目的は、法と秩序、公共の安全、生活の質であり、特にこの3つを市街と地下鉄に取り戻すことだと述べた。また、警察の予算を削減しようという声があることで、士気が低下していると主張している。さらに、一部の民主党候補者が提案している、市の最貧困層に普遍的なベーシックインカムを提供するという提案を批判した上で、固定資産税制度を見直し、より公平なものにしたいと考えている。

Fernando Mateo , 63歳

レストラン経営者、タクシードライバー連盟の元会長

 マテオ氏は、タクシー運転手やボデガ(小規模食料品店)の従業員を代表するグループを率いた経験を持ち、ブロンクスでレストランを経営している。ドミニカ共和国出身で、市のラテン系コミュニティとのつながりがある。長年にわたり政治に関わり、ビル・デ・ブラシオ市長の資金調達をめぐるスキャンダルに関連していたが、起訴されなかった。

参考URL

https://www.nytimes.com/interactive/2021/nyregion/nyc-mayor-candidates.html

https://nyunews.com/news/2021/04/23/nyc-election-mayor-polling-data/

(神笠所長補佐 呉市派遣)