28 11月 2011

NYPD(ニューヨーク市警察) 109分署のコミュニティポリシング

ニューヨーク市の多文化共生対策の調査を行っていた群馬大学の結城恵教授と、移民の多いコミュニティでの警察の活動を研究するため、アジア系移民が多いニューヨーク市クイーンズ地区フラッシングのニューヨーク市警(NYPD)109分署を訪問した。そこで、コミュニティ・ポリシング担当であるケヴィン・オダネル刑事(Detective Kevin O’Donnell)に、住民との関係改善の政策や活動について話を聞いた。

最も重要と感じた情報は、各分署がコミュニティ委員会という支援団体を有する、ということであった。コミュニティポリシングを実現するために開催する多くのイベントには、ニューヨーク市警の予算は一切使われていない。全額がそのコミュニティにある様々な企業からの寄付金によって賄われている。同寄付金を取り扱う団体がコミュニティ委員会である。会長とすべての委員はボランティアであり、委員会は非営利団体の認定を受けて、警察署の代わりに寄付金やイベントの支出を管理する。

日常生活の中で、一般的に、警察と接触する状況は、住民にとって不愉快な場面が殆どである。例えば、犯罪被害者の立場から事件を警察に報告すること、自分や家族が取調べを受けること等である。オダネル刑事によると、コミュニティポリシングの役割は、警官と住民の関係を円滑にして、住民からの情報提供を促すことにある。また、警察の業務過失・不祥事件等があったときは、警察と住民との関係が悪化することを防ぐことにも貢献する。警察や行政機関に信頼がおけない国の住民は警察に対する警戒心が強く、犯罪の被害を受けても報告しないケースが多い。

それでは、どのように住民に身の回りの安全を教え、警察とより協力的な関係を築くのか。一つの方法が、警察と住民とが共同で楽しいイベントを開催することである。109分署の場合、一番人気のある行事はハロウィーンのパーティである。10月31日のハロウィーンの前に開催し、パンフレットなどを配り、親と子供のために安全なハロウィーンの楽しみ方を教えながら、お菓子をあげたりゲームを楽しんだりするイベントである。街中の住民が毎年楽しみにしており、夏の終わりごろから「パーティをいつするの?」と住民が尋ねてくる、という。最近の予算の大半は、フラッシングに二つの店舗を持つ「ターゲット」という全米のチェーン店が負担している。ターゲットにとってはPRの価値が高く、109分署にとってもイメージが良くなり、住民にとって楽しい催し物があるうえに互いに情報を得ることができる。住民がパーティの場で警官と話す機会を持つことで、その後、問題があるときなどには警察に話しやすくなる効果があるとオダネル刑事が語っていた。住民からの犯罪などに関する情報も得るケースもあるという。

もうひとつの重大な要素は、計画設定から実施の段階までの関係者の自立性である。ある程度まで上からの指揮命令はあるが、細かいところはできる限り目的とその達成方法を各分署の担当者に任せないとうまくいかないと刑事が主張していた。トップダウンの形ではそのコミュニティの独特な状況に合った活動ができないうえ、担当者自身が権限を持って取り組まないとベストな結果を得ることができない。つまり、最終的には指揮命令に従うかどうかよりも、結果を見て評価をすることが大切である。募金活動やイベントの結果は、募金の集まり具合やイベントに参加する住民の数で把握できるので、効果的に活動しているかどうかは判断がしやすい、と刑事が語った。

単一民族の町でも、コミュニティポリシングは貴重なツールであるが、移民の多いところであればさらにそうである。言語の問題の上に文化・慣習の違いや、警察に対するネガティブな先入観もあり、警察と住民の間の障壁が高いケースは少なくない。そのような中で、住民の身の回りの安全情報を提供したり、犯罪に関する情報を得たりしながら、警察と住民が信頼関係を強化することは大切である。効果的に実施するのは容易ではないが、109分署のように継続的に住民のニーズを把握しながら対処することで、住民にとってより安全で住みやすいコミュニティを築くことができる。


マシュー・ギラム 上級調査員