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パスポート、運転免許証、そして“ソーシャル・セキュリティー・ナンバー”

11月初旬、連邦政府は、国民に新型コロナウイルスのワクチンを支給するにあたり、パスポート、運転免許証及びソーシャル・セキュリティー・ナンバー(Social Security Number、以下「SSN」という。)いずれかの手段を用いて対象者を把握する方針を示した。クオモ・ニューヨーク州知事はそれに対し、連邦政府は不法移民の追跡を目的としている可能性がある、医療を受けるのに個人情報を問うのはおかしいとして猛反対し、民主党の知事らにそれらの情報を連邦政府に提供しないよう呼びかけたことは記憶に新しい。パスポートと運転免許証は日本人にとっても馴染みがあるが、SSNとはどのようなものなのだろうか。

日本における類似の制度としてマイナンバー制度が存在する。日本でマイナンバー制度が導入されたのは2015年。アメリカでSSNが導入されたのはそれよりはるか昔、1936年のことである。SSNは、アメリカ国民、永住権所有者及び労働等を目的とした一時的な居住者に対し発行される個人番号である。社会保障法(Social Security Act)に基づき、政府機関である社会保障局(Social Security Administration)が管轄している。もともとはニューディール社会保障計画の一環として、単に労働者個人の生涯所得を把握し年金等社会保障の給付に利用するために創設されたものであるが、今日では所得情報、銀行口座、信用情報等と紐づけられ、政府機関や雇用主、金融機関だけでなく、クレジットカード会社、その他定期的な支払いを伴う契約の場面を中心に、民間企業も含め広く利用されている。言わば、事実上普遍的な個人番号の地位を確立しているわけである。

SSNは3つのグループによる9つの数字(AAA-GG-SSSS)で構成されており、最初の3桁がエリア(Area)番号、真ん中の2桁がグループ(Group)番号、最後の4桁がシリアル(Serial)番号である。当初の規則に基づくと、エリア番号は州ごとに東から西にいくにつれて数字が大きくなるよう定められ、グループ番号は偶数、奇数、数の大小など一定の法則に従い割り振られ、シリアル番号は1から9999までの数字を自動的に割り振られるというものであった。その後、2011年には限りある番号の長寿命化を図るべく、エリア番号の法則を廃止し、シリアル番号をランダム化するなど附番の仕組みを変更した(SSN randomization)。その結果、現在のSSNは構成に関しては導入時と変わりないが、それぞれの構成グループにあまり意味はなくなっている。

2008年12月時点において、4億5,000万人以上に対して発行されている。番号の使用は一度きりで、再度使用されることはない。また、家庭内暴力や個人番号の盗難の被害に遭った場合など、ごく稀なケースに限り番号の変更が許可されている。

一方、過去には、特にミクロネシアなど一部太平洋諸島の住民とアメリカ本土の住民との間で同一の番号が割り当てられ、自らが全く関知しない他人の金銭上のトラブルに巻き込まれるケースも発生している(太平洋諸島の多くは、独自の8桁の番号を利用しており、機械が自動的に最初にゼロを追加して9桁とみなすことで、エリア番号がニューハンプシャー州やメイン州などと被り、偶然にも同一番号が作られることがあるという。)。

アメリカ国内におけるほぼすべての合法的な居住者はSSNを所有しており、現実的に就職、口座開設、ローン契約などの経済的活動は、SSNなくしてはもはや困難となっている。日本のマイナンバーの場合は、番号の利用や取扱いができる場面・主体が法律で詳細に定められており、それ以外の者による任意での利用は認められないが、アメリカではそこまで厳密な規制はなく、例えば大学の学生番号としてSSNがそのまま利用される例もある(ただし、州レベルでSSNに係る一定の保護措置をとっている州も多く存在する。)。2012年から2016年にかけて、不法移民の就職のために390万件もの大量のSSNが盗まれ不正に使用された事件が発生しており、社会保障局は、普段からむやみな個人番号の開示を避け、開示を求められた際には何に基づいて求めているのか根拠を問うよう勧告している。

発行形態は紙のカードである。カードの様式は、軽微なものを含め過去に34回もの改訂がなされている。基本的には、氏名(本人直筆のサインを含む)、番号のみが記載されており、生年月日等その他の個人情報や顔写真等身体的特徴が記載されていないため、いわゆる身分証明書とはなりえず、身分証明書としては運転免許証等の使用が一般的である。

最近の活躍はコロナ禍にある。新型コロナウイルスによる緊急経済対策のための個人給付(Economic Impact Payment)が大人1,200ドル、子供500ドルを上限に実施され、受給資格の判定及び給付のために利用された。2018年、2019年に確定申告をした者または年金受給者については、その情報が用いられたため申請不要であり、給付まで自動的に行われたが、それ以外の者(主に低所得者層で、4割弱の国民が該当すると言われている)は申請が必要で、その際SSNの記入が求められた。

移民大国、アメリカ。様々なバックグラウンドやステータスを持つ人が一つの制度のもとに生活し、経済的活動を行っている。人々の個人情報を統一的な番号で管理する仕組みは、使用方法によってはとても有効に機能するだろう。次の活躍の機会はまたしてもコロナ禍、ワクチン支給時になるのだろうか。政権交代は2か月後に迫っている。

(大橋所長補佐 総務省派遣)