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米国における『食品砂漠』

肥満問題は今や、米国の国家的な関心事になっている。では、アメリカ人が太る原因は何だろうか。最寄りのスーパーマーケットから少なくとも1マイル離れたところに住むアメリカ人が230万人以上いるということをその原因に挙げる人々がいる。新鮮な肉、野菜や日用品を購入するのに1マイル以上も移動しなければならないような地域は、『食品砂漠(フード・デザート)』として知られている。そして政府は、この食品砂漠が肥満問題の一因となっていると考えている。というのも、新鮮な食材の手に入る食料雑貨店が近くになければ、加工食品やファスト・フードに偏ってしまうからである。

米政府は、この流れは断ち切る事ができると考えている。ファースト・レディ、ミッシェル夫人の『レッツ・ムーブ運動』(小児肥満対策運動)の取り組みは、ウォール・マート、スーパー・バリュー・ウォールグリーン等の大規模スーパーマーケットに対して、食品砂漠の地域にも店舗展開を拡大させる事に成功している。しかし実際は、ファースト・レディのこの楽天的な見方に誰もが賛成しているわけではない。中には、食品砂漠地域に新しいスーパーマーケットを開店することが人々の食生活に与える影響は、ゼロか、あったとしても極僅かだという批評家もいる。

ノース・カロライナ大学は近年、15年に渡って5千人のアメリカ人の食生活を研究したが、その研究によると、スーパーマーケットの近隣に住むという事は食生活に対してほとんど影響を与えておらず、実際の原因は『フード・スワンプ』にあると判断されている。フード・スワンプとは、ファスト・フード、高カロリーの食品、炭酸や砂糖がたくさん入ったジュースやフライ食品で溢れている地域の事である。人々がファスト・フードを好む理由を考えると、安く、簡単、便利でおいしいという事以外にも、広告による効果が大きい。ファスト・フード会社らは、年間42億ドルを製品のマーケティングに投入している。(ジューシーなハンバーガーやピザを全面に押し出した魅力的な広告等)

では、どのようにすれば人々の食に対する嗜好が変わるのだろうか。ノース・カロライナ大学の研究では、低所得者居住区におけるファスト・フード店舗数を制限する法整備を提案している。この手法を採用したロサンゼルス市は、市内南部において、ファスト・フード店舗数の制限に成功しており、ファスト・フードではないレストランや、総合食品・雑貨店、健康食品店が新たに出現している。

米国の成人のうち、1日に野菜を3皿摂取するのは、全体のわずか26%にとどまる。塩分や砂糖のたくさん入った食料・飲み物に慣れ親しみ、逆に新鮮な食料に対しては、魅力的ではない、むしろ少し違和感を覚える人も多い。地方行政の取り組みによって、人々が健康的な食事を選択するかというと、必ずしもそうではない。ましてや、何を食べるかという事を法律で取り決めることはできない。しかし、行政と食産業界が共に今以上の努力をもってアメリカ人の食生活の改善を促せば、それはアメリカ人の食習慣を徐々に変えるための推進力となるだろう。特に米国の若者に対しては。

執筆:Stephen Fasano, Senior Researcher