在外公館投票の投票所を見学

 海外在住者も、公職選挙法に基づき、国政選挙の投票が可能とされている。2000年から比例代表選出議員選挙について、2007年以降は衆議院議員小選挙区及び参議院議員選挙区(補欠選挙及び再選挙を含む。)についても投票が可能である。
 今般、第49回衆議院議員総選挙が10月19日に公示され、10月31日の投開票に向けて選挙戦が行われている。公示日前の10月18日に、ニューヨーク総領事館に設置された在外選挙の投票所を見学するまたとない機会を得たので、その様子を報告することとしたい。

1 海外在住者の選挙の方法

⑴ 在外選挙人名簿への登録及び在外選挙人証の取得
 海外在住者が投票を行うには、初めに在外選挙人名簿へ登録し、在外選挙人証を取得する必要がある。これにより、海外に転出する直前の住所地の属する選挙区・比例区での投票が可能となる。2020年10月現在、海外在留邦人はおよそ135万人、そのうち在外選挙人名簿に登録されているのは、およそ9万7千人となっている。
 在外選挙人名簿への登録申請は、出国前に国外への転出届を提出する際に市区町村の窓口で申請する方法(出国時申請)と渡航後に居住しているエリアを管轄する大使館もしくは領事館(以下「在外公館」という。)に申請する方法(在外公館申請)がある。いずれの場合も海外に3か月以上居住していることが登録の要件であるため、日本の市区町村へ転出届を提出するとともに、渡航後には在留届(※1)を在外公館へ提出する必要がある。在外選挙人証が発行されると、在外公館の窓口もしくは郵送で受け取る手順となっている。手続きは、3か月の居住要件を満たした上で開始され、概ね3か月程度かかる。

在外選挙人証の見本 表面(右)、裏面(左)

⑵ 在外選挙人の投票方法
 在外選挙人の投票方法には、以下の3つの手段がある。

①在外公館投票
 投票所を設置している在外公館で投票する。投票期間は、後述の通り、投票用紙を日本、最後は各市町村選管まで送付する必要があることから、原則として選挙公示日の翌日から投票日の6日前までとされている(運搬の都合で前倒しする公館もある)。今回の第49回衆議院議員総選挙において、ニューヨーク総領事館では10月20日(水)から10月24日(日)の5日間、午前9時30分から午後5時の時間帯に実施された。

②郵便投票
 在外選挙人が、登録されている市区町村選挙管理委員会に投票用紙等を請求し、自宅等に郵送された投票用紙等に記入した上で、投票先の市区町村選挙管理委員会に改めて送付する方法で行われる。投票にかかる郵送料は、原則自己負担となっている。また投票用紙等の請求と記入済の投票用紙等の送付のために最低でも計2回、日本と外国の間で郵送のやり取りをしなければならず、投票用紙が日本国内の投票日における投票終了時刻までに投票所に到達しなければならないため、リスクも伴う。

③日本国内における投票
 在外選挙人が選挙期間中に一時的に帰国していた場合や帰国後すぐに選挙が実施され、国内の選挙人名簿に登録されていない場合に、選挙当日や期日前投票などに、通常の国内の投票手続きを利用して投票する。この場合も在外選挙人証の提示が必要となる。

2 在外公館投票の具体的な流れ
 ここでは在外公館投票の具体的な流れを紹介する。

投票所の様子

⑴ 投票所での流れ
 在外選挙人は各在外公館の定めた投票期間に、在外選挙人証及びパスポート等の身分証明書を持参の上投票所を訪れる。日本国内と違い、選挙が開催される際に投票所案内(はがき)は送付されず、また、投票期間は日本国内より短いので、在外公館からのメールやウェブサイトの情報により、自分自身で把握しておく必要がある。

①投票用紙等請求書の提出
 在外選挙人は投票所に到着後、まず投票用紙等請求書を受け取り、投票したい選挙(今回は衆議院小選挙区選出議員選挙または比例代表選出議員選挙のいずれか、もしくはその両方)にチェックし、氏名や在外選挙人証の交付番号などを記入した後、在外選挙人証、身分証明書とともに受付係へ提出する。

投票用紙等請求書の見本(左)

②受付係で投票用紙等一式を受領
 受付係は、投票所に来た人物が在外選挙人証に記載された人物と同一か身分証明書と照らし合わせて確認した後、在外選挙人証裏面に選挙の種類、投票用紙交付日、在外公館の名前を記載する(重複投票の防止)。その後受付係から投票用紙とそれを封入する内封筒、外封筒、郵送用封筒の一式が交付される。小選挙区と比例代表のいずれも投票する場合は、投票用紙だけではなく、各封筒もそれぞれ交付されるので2セット受け取ることになる。小選挙区だけではなく、比例代表の投票用紙も同時に交付される点は日本の通常の投票所と異なっている。

投票用紙(右下)、内封筒(右上)、外封筒(中央)、郵送用封筒(左上)

③投票記載台で投票用紙等一式へ記入
 投票用紙等を受け取ったら、在外選挙人は投票記載台に移動し、投票用紙に記入する。通常の投票所では記載台に候補者又は政党の一覧が掲示されているが、在外選挙の場合は全国すべての選挙区・比例区に投票する在外選挙人が来訪する可能性があるため、机上には全選挙区又は比例区の候補者・政党を一覧できるファイルが置かれている。
 記入した投票用紙はまず無記名の内封筒に封入し、次に内封筒を氏名や登録された選挙区名などを記載した外封筒に封入する。

投票記載台

④受領係へ提出及び立会人の署名
 投票人は上記外封筒と、登録先の市区町村選挙管理委員会の住所を記載した郵送用封筒を受領係へ提出する。受領係は外封筒の記載内容を確認した後、立会人(※2)に渡す。立会人も記載内容を確認し、問題がなければ、外封筒の所定の位置に署名をする。この立会人の署名がない投票用紙は無効となる。
 立会人の署名までが終わったものを郵送用封筒に封入し、受領係が選挙期間終了まで鍵付き金庫に保管することになっている。

受領係と立会人席

⑵ 投票期間終了後の流れ
 投票期間が終了すると、在外公館の職員が投票用紙の入った郵送用封筒を持って日本に一時帰国し、外務省から各市区町村選挙管理委員会へ送付される。選挙日当日、各市区町村選挙管理委員会の投票所において投票箱に投函され、他の投票とあわせて開票されることになる。


 今回はコロナウイルス禍で行われる初の大規模な選挙である。投票所の運営に当たっては、投票記載台をこまめに消毒する、発熱のある在外選挙人が来場した場合は投票所の流れを一時的に止めるなど、普段にも増して多くの労力が必要となっている。ニューヨーク総領事館では、投票所の内外合わせて常時およそ14名体制で行っており、領事館の職員だけでは人員が足りないため、人材派遣会社にスタッフを依頼し、交代制で行っているとのことであった。日本の投票所であれば、近隣の自治会長や民生委員など、投票所の周辺事情に精通している方が立会人を務めており、受付での本人確認に加えて、立会人の監視の目も入ることで、自然と選挙の公正さが保たれている側面がある。しかし、スタッフも在外投票人も毎回異なることが予想される海外の投票所ではそれが期待できない。そのため、身分証明書でもって本人確認をより厳格に行い、記入済投票用紙の送付に当たっては立会人のサインを要するなど選挙の公正さを担保するための制度が整っており、日本国内の投票事務に従事したことのある私にとっては新鮮だった。
 アジアのとある在外公館では、日本と同様に投票所案内(はがき)を発送した事例があるという。しかし、日本と違い、現地ではより良い物件を求めて頻繁に引っ越しを行う習慣があることに加えて、現地に滞在する日本人は比較的短期間で日本へ帰国するビジネス関係者が多いため、送付したはがきのうち半分が返送されてしまったとのことである。日本と同様の条件で選挙を実施しようとしても、その国や地方特有の習慣を考慮しなければならず、投票機会の平等を確保することは想像以上に課題が多く難しい。
 前述のとおり、在外選挙人名簿に登録されているのは9万7千人で海外在留邦人全体のおよそ7%にとどまっている。日本国内では若者の選挙離れが叫ばれて久しいが、海外在住者にとっても日本を出国した後も継続的に日本国内の施策に関心を寄せるということは意外と難しいのかもしれない。また、現時点で在外選挙人が直接投票するためには在外公館に出向くしかなく、郵便投票をしようにも高額な郵送料がかかることを考えると現状では投票すること自体ハードルが高いと感じた。
 今回の見学を通じ、日本へ貴重な一票を届けるため、在外公館職員をはじめとした多くの人が関わっていることに触れ、一票を投じることの重要性について改めて気付くことができた。

※1 旅券法第16条により、外国に住所又は居所を定めて3か月以上滞在する人はその地域を管轄する在外公館に在留届(氏名、海外での住所、旅券番号など)を提出することが義務付けられている。現在はオンライン申請が可能。

※2 在外投票における立会人は、通常在外公館の職員が務めている。

(猪丸所長補佐 広島市派遣)