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NCSL(全米州議会議員連盟)オンラインベースキャンプに参加

9月14日~9月17日の4日間、NCSL(全米州議会議員連盟)のオンラインでのベースキャンプが開催された。当初の予定では、8月10日~12日に、インディアナ州のインディアナポリスにて年次総会が開催されるはずであったが、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点により中止となり、代わりに開催されたものである。セッションの内容は多岐にわたり、新型コロナウィルスをはじめ、今後の経済、大統領選、差別など現在問題となっている事柄が取り上げられた。セッション中、参加者同士はチャットができる仕組で、そこで多くの意見交換が行われ、さらに講演者に質問することができ、選ばれた質問については司会を通じて回答が得られる。オンラインとはいえ、そうした仕組によって参加者同士、参加者と講演者の交流が図られていた。

(参考)
NCSLは、アメリカ合衆国50州及び海外領土の各議会や議会事務局職員のための共同組織として1975年1月に設立された団体で、各州議会議員と議会事務局職員により構成され、現在2万人以上のメンバーを有している。州議会の資質の向上、各州間の連絡・協力の促進、連邦政府に対する州議会の発言権の確保などを目的に、各議会に対し、調査や専門的支援、州における喫緊の課題等に関し意見交換を行う場の提供などを行っている。


議題の一つとなっていた「嫌がらせや差別と多様性:安全で包括的な職場づくりのための州の取り組み」について、セッションの内容を紹介する。

アメリカでは毎年500万人の人が職場での性的嫌がらせを受けているが、99.8%の人たちは正式な告発行為には至っていないという。職場によっては、告発行為をした人に懲罰行為を行う場合さえある。しかし、職場で起きている嫌がらせや差別には性的なものに限らず不公平な賃金、昇進の遅延、雇用の妨害、偏った業績評価など、様々な問題も含まれているということだった。また、労働者は同じ職場において人種的および性的嫌がらせを同時に受ける可能性があり、それらを切り離して考えるべきではないとの指摘もあった。

職場での様々な嫌がらせや差別を防止するため、州を中心にハラスメント法の制定等の取り組みが行われてきたが、さらに職場で労働者がどんな被害を受けているのかを認識し、法律の対象を人種や、肌の色、障害、宗教、年齢、出身国などにも広げる必要があるという。こうした現状を踏まえ、嫌がらせや差別に関して州が取り組む必要がある課題としては以下のようなものが挙げられていた。

  • 性的嫌がらせに限らず全ての嫌がらせの和解に関して、NDA(秘密保持契約)の禁止 (NDAによって事実が明るみにでない)
  • ハラスメント防止トレーニングの義務付け、改善
  • 告発した労働者を名誉毀損で訴えることを困難とする反スラップ法の制定
  • 請負業者、インターン、ボランティア、大学院生などハラスメント法の対象の拡大
  • 嫌がらせ又は差別を申し立てることができる期間の延長
  • 問題が解決した後、被害者が再び同じ雇用主のもとで働くことができないという再雇用禁止規定の廃止(業界の統合が進むにつれ、労働者は自分の分野で働けなくなる可能性がある。)
  • ホットラインなど嫌がらせや差別を受けた時に苦情を申し出やすい環境づくり
  • 生来の髪型への差別の禁止
  • こうした嫌がらせや差別への取り組みは「Me Too」運動をきっかけに広まったという。以下に現在に至るまでの主な動きについて紹介する。

    アメリカの社会活動家Tarana Burke 氏は女性への性的嫌がらせ(とくに有色人種の女性を対象としたものについて)の存在を主張し、2006年にSNS上で「Me Too」という言葉を使い始めた。Tarana Burke 氏は性的嫌がらせがどれだけ蔓延しているのかということと、被害者たちに向け支持者がいるということを訴えている。2017年10月、「Me Too」の言葉は女優のAlyssa Milano氏によって広まることとなった。Alyssa Milano氏はツイッターで、性的嫌がらせや暴行を受けている人は「Me Too」と書いてツイートに返信してくださいとフォロワーにメッセージを送った。Alyssa Milano氏のツイッターには24時間以内に何千もの返信、コメントが集まり、その他の多くの投稿に大きな影響を与えた。世界中の人たちは男女ともに自分たちの経験について共有することとなった。

    2018年には「Time’s up」運動が起こり、職場での性的差別、いじめ問題に注目が集まった。これは、職場での女性への性的嫌がらせ、低い給与、立場の弱さに抗議するもので、あらゆる女性が、どこでも安全で、公平で、威厳を持って働けることを主張している。この運動は、300名以上のハリウッド女優たちによって起こされ、そのメッセージは瞬く間に世界中の業界や個人に響き渡り、どの職場も、どのように従業員たちを差別から守るのかの対応が求められた。そして今年、「ジョージ・フロイド氏事件」を発端とした「Black Lives Matter」運動が起き、企業は多様性の促進、職場での差別禁止の取り組みを迫られた。

    多くの移民が流入する多民族国家であるアメリカであるが故に嫌がらせや差別に関する問題は幅広く、複雑である。行政としてどのように対応していくのか非常に難しい問題だとは思うが、少しずつでも改善されることを期待したい。

    (舘所長補佐 茨城県派遣)