13 10月 2020

~マンハッタンのスチームシステム~

マンホールから噴き出す白い蒸気に、何かしらのマンハッタンらしさを感じるのは筆者だけだろうか・・。

ニューヨークを舞台にした映画でも度々目にする白い蒸気。凍える夜に人が歩けば、何かの物語が始まることを予感させる名脇役。寒さと街路灯のためか、冬の夜の蒸気は、殊更に噴き出す勢いを増しているように見える。実際は冬だけでなく夏でも街中のいたる所で煙が上がっており、近寄ってみると、温泉街を流れる排水溝のようにモワっとした湿気と熱を感じる。温泉のような鉱物的な匂いはないが、場所によっては少々下水のような臭いが鼻をつくこともしばしばある。地下に埋設された熱いスチーム管に雨水や地下漏水が接触して発生した蒸気、管のつなぎ目から漏れ出た蒸気などがマンホールなどの穴を通じて地上に出てくるものがその正体らしい。

スチームによるインフラは日本ではほとんど耳にしないが、ここマンハッタンでは100年以上も前から使用されている。1881年に最初のスチームプラントがスタートし、その後の4年間で350の顧客の獲得に成功、順調に歩み出した。しかし1888年の大ブリザードの影響により、電線などのインフラが壊滅、これを機に全てのインフラ設備が地下に埋設されることになり、スチーム管も現在あるような地下施設に収まった。

現在のスチーム供給は、マンハッタン区内に4箇所、クィーンズ区内に1箇所の計5つの供給プラントを保有するCon Edison社が、電気などと併せて請け負っている。パイプの総延長は105マイル(約169キロメートル)、マンハッタンの南半分(East 96th、West 89th 以南)の主な地区をカバーし、エンパイア・ステートビル、ロックフェラーセンター、メトロポリタン・ミュージアムなどの観光名所や病院、レストラン、ギャラリーなどの主要施設など、1,650棟以上のビル(マンハッタン区内のビル数は約4,650棟)と契約している。

筆者は、このスチームの役割は暖房やお湯の供給のための熱源だけのものだと思っていたが、実際の用途はもっと広いようだ。冷房はもちろんのこと、病院や美術館などの加湿や施設のスチーム殺菌、レストランの食器洗い洗浄機、チーズ工場の凝乳作業に至るまで様々な形で利用されており、人々の生活に密接なものとなっている。

また、スチームは大気汚染等の環境面への影響も少なく、エネルギーとしての費用対効果も認められている。ニューヨーク大学は独自のスチームシステムを設置し、光熱費の大幅な削減と環境への配慮を両立させており、初期の設備投資はそれなりに必要なものの、長期的には利点も多いのが魅力である。

一方で、過去には大きな爆発事故も発生している。1989年にはグラマシーパーク付近で、2007年にはグランドセントラル駅付近で、どちらもウォーター・ハンマー(管に高圧力がかかり過ぎて破裂を起こすもの。)という現象に起因して事故が起き、死傷者も出ている。これらの事故以外にも小さな事故は度々発生しており、爆発により古いパイプ管を覆うアスベストの飛散も懸念されているそうだ。現在は、高度なモニターシステムを用いて管理しているようだが、100年以上も経った古い管が破裂したニュースに触れると、少々不安を感じるのも正直なところではある。

2007年の爆発事故 (WNYC NEWS)

これからの寒い季節、白い蒸気がニューヨークの街角を包む光景は美しさも感じるが、近くで深呼吸をすることは少々避けた方が無難かもしれない。

(柳井所長補佐 警視庁派遣)