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コロナ禍におけるニューヨークの飲食店

新型コロナウイルスが猛威を振るい、一時はホットスポットと呼ばれたニューヨーク。新型コロナウイルスがニューヨークの人々の生活にもたらした影響は計り知れない。中でも飲食店への影響は大きく、文字通り大打撃を受けたと言えるだろう。今回はそんなニューヨークの飲食店事情を紹介したい。

3月7日にニューヨーク州(以下「州」という。)、続いて12日にニューヨーク市が非常事態を宣言、それから約1週間後の州知事の執行命令により、「生活に不可欠な業種」以外の閉鎖が決定された。飲食業については「生活に不可欠な業種」とされつつも、配達・持ち帰りのみの営業が許可され、屋内外にかかわらず店内営業は全面的に禁止された。世界でも有数のレストラン都市、ニューヨーク。通常であれば昼夜を問わず人々の姿であふれ活気に満ちたニューヨークの街は、一瞬にしてゴーストタウンと化した。はじめのうちは何とか細々と営業していた飲食店も次第に減り、「CLOSED(閉店中)」や「TEMPORALY CLOSED(一時閉店中)」という張り紙が目立つようになっていった。

それから2か月弱が経過した5月中旬、州は地域ごとに段階(フェーズ)を踏んで経済の再開を始めた。ニューヨーク市を除く州内のエリアではフェーズ3にて飲食店の屋内営業が収容人数の50%を限度に許可されたが、人口が密集するニューヨーク市においては、屋内営業の再開による感染拡大の懸念が払拭できないことを理由に延期となり、最終段階であるフェーズ4に入ってもその状況は変わらなかった。この状況に不満を抱いたニューヨーク市の飲食店は8月下旬、州及びニューヨーク市を相手に訴訟を起こし、賠償金2億ドルを要求、350店舗以上が署名した。ニューヨーク市外に一歩足を踏み出せば屋内営業が許可されており、地理的な距離はさほどないにもかかわらずニューヨーク市内の飲食店は極めて不利な状況に置かれているとの主張である。

こうした苦しい状況下においても、ニューヨーク市では6月下旬にフェーズ2に突入して以来、約1万店舗が屋外営業を続けており、パンデミック以前には及ばぬものの一部街には活気がよみがえっている。州が示すガイドラインは、接客時のマスク着用や社会的距離の確保が可能なテーブル配置など一般的な対策は当然のこと、あくまでも着席を伴う「ダイニング」であり、人々がアルコール片手に集まる「バー」を許可するものではないとして、食事を伴わないアルコール販売の禁止規定なども設けている。ガイドラインに従わない飲食店は、リカーライセンスの停止処分や1万ドル以下の罰金を科される。これまで州全体で1,000店舗以上がいずれかの処罰対象となっている。

一方、ニューヨーク市は「Open Restaurants program」を立ち上げ、歩道や車道など公共の路面を使用しての(路面にテーブルを設置するなどの)営業を許可しており、一定の通路の確保などについてガイドラインを示している。路面店が立ち並び、狭くなった道路を人々や車が行き交う光景は、この夏の風物詩とも感じられた。他方で、一定の制限下における店側の工夫も注目に値する。例えば、人同士の接触を最小限にすべく紙のメニューを廃止し、QRコード読み取り式のメニューを導入する店舗が急増し、すでに定着化している。また、多少の雨風にも負けない立派なテントや雰囲気を醸す照明、観葉植物、扇風機等の設置に至るまで、屋外空間を快適にする様々な工夫が見られる。夏の晴れた夕方に訪れると解放感にあふれ、屋外での飲食も決して悪くないというのが実感である。ただし、広い屋外スペースの確保や、従来の密集したテーブル配置が困難であることなどから、多くの店舗が苦戦を強いられているのが現状で、「ニューヨーク州レストラン連盟」が実施した調査によると、ニューヨーク市内2万7,000強ある店舗の80%が7月の家賃を完全に支払うことができなかった。また、連盟に加盟する州内1,042店舗の64%が、経済的援助を受けられなければ年末までに閉店する見込みがあると回答した。

ニューヨークの短い夏が終わり、秋に差し掛かった9月9日、州知事は市の飲食店に対し、9月30日をもって屋内営業を収容人数の25%を限度に許可することをついに発表した。客には入店前の体温測定や連絡先の提出などが義務付けられる。屋内営業が解禁されれば感染拡大リスクは当然高まる可能性がある。感染爆発を乗り越え、いまだ第2波の到来を見ていないニューヨークにおいて、ニューヨーク市の屋内営業の再開がいかなる影響を及ぼすのか。客としては待望の屋内営業に期待が高まる傍ら、不安もぬぐえないのが現状である。


(大橋所長補佐 総務省派遣)