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ニューヨーク市内の美術館がいよいよ再開!

2020年3月以来、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点からニューヨーク市内の美術館は閉鎖が続いてきた。8月14日、ついにニューヨーク州知事は美術館の再開を許可した。これにより8月24日以降の再開が可能となり、約半年ぶりに市内の美術館は再稼働を始めている。

美術館の再開は決して予定通りなものではなかった。新型コロナウィルス感染状況がピークを超え収束に向かい始めたことに伴い、州知事は5月に経済再開のプランを示した。それは州内各地域が感染状況や医療・検査等の体制に係る基準を満たした上で、業種を4つに分類して段階(フェーズ)を追って順次再開するという内容で、美術館は第4フェーズに該当し、ニューヨーク市内は7月20日に再開できる予定であった。しかし、州政府の判断により、ニューヨーク市内の美術館の再開は延期となっていた。また、再開といっても、美術館の運営は全く以前と同様というわけではない。州政府は事業再開のための事細かなガイドラインを作成しており、事業主はそれを遵守しなければならない。美術館については、収容人数25%以下、来場者の体温測定、館内でのマスク着用、ソーシャルディスタンスの保持のために来場者の一方通行、サニタイザーの設置などの措置が求められる。人数制限に伴い来場者は時間指定の事前のチケット購入が推奨されている。こうしたガイドラインに沿った対策を行い、ようやく美術館は再開した。

以下、ニューヨーク最大級の美術館、メトロポリタン美術館を取り上げて、新型コロナウィルスが美術館に及ぼした影響や現在について紹介したい。

世界3大美術館の一つと言われているメトロポリタン美術館(通称メット、以下「メット」という。)はマンハッタンの5番街に所在している本館のほか、市内に2つの分館(メット・ブロイヤー、メット・クロイスターズ)がある。いずれも3月以降閉鎖が続いていたが、本館は8月27日、28日に会員を対象に、29日からは一般公開が再開された。メット・クロイスターズについては9月12日に再開する。かつては1時間に最大5,000人もの来場者があったと言われるメットだが、規制により1時間あたり2,000人までに制限し、さらに火曜日と水曜日は閉館とするなど開館時間も制限している。また、この数カ月に及ぶ閉鎖の影響で、1億5000万ドルの財源不足が予想されている。そのため、4月には81人の職員が解雇され、役員報酬は20%以上カットされた。そして再開を数週間後に控えた8月5日には、79人の解雇、181人の一時休職、93人の自主退職が実施された。これにより2,000人いた職員の約20%が解雇されたことになる。これだけの解雇が行われたのは、人件費が年間予算の65%を占めており、今後の運営継続のためにはやむを得ないものだったからだ。さらに残念なことは、分館の一つメット・ブロイヤーは再開する日を迎えることなく、正式に閉館となってしまった。この建物はもともとニューヨーク市内の別の美術館、ホイットニー美術館の移転に伴いメットが引き継ぎ、2016年に分館としてオープンした。現代アートを中心として様々な企画展示やパブリックプログラムが開催されてきたが、2018年に財政削減のため、2020年にまた別の美術館であるフリックコレクションに建物を譲渡することが発表されていた。これにより3月4日に始まったGerhard Richterの回顧展はわずか9日間のみの公開となった。

こうした経緯を経て、メットは再開の日を迎えた。建物の外では職員が来場者の体温チェックを行い、その後建物への入場が許可される。「Welcome back」という言葉で迎えられ、犠牲を払いながらも長きにわたる閉鎖を乗り越えた美術館にこちらが「Welcome back」と言いたくなる。建物正面には「DREAM」 と「TOGETHER」の二つのバナーが掲げられている。この作品はオノ・ヨーコのもので、希望と団結の力強いメッセージを発している。

メットの他、MOMA(ニューヨーク近代美術館)、ホイットニー美術館などが順にオープンしているが、観光客がなかなか戻らない中、いかに来場者を確保するかが今後の課題となるだろう。新型コロナウィルスの感染拡大による数ヶ月に及ぶ閉鎖が与えた影響は決して小さなものではないし、それはメットに限ったことではない。しかし希望と団結でもって苦境を乗り越えていって欲しい。

(舘所長補佐 茨城県派遣)