新しい移動手段「電動キックスクーター」


クラス2の電動キックスクーター

 日本でも時折見かけることがあると思うが、ニューヨークでは最近になって人々が「電動キックスクーター」で走る姿を見ることが増えている。依然として新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るっており、地下鉄やバスといった公共交通手段と違い、電動キックスクーターは屋外を走り、他者と十分に距離を保つことができるため、新たな移動手段として脚光を浴びている。今回は、ニューヨークで人々の新たな移動手段となりつつある「電動キックスクーター」を紹介する。

これまでの経緯
 そんな電動キックスクーターだが、ニューヨークで合法となったのはつい最近だ。これまでは、電動キックスクーターだけでなく自力で漕ぐ必要がある電動アシスト付き自転車以外の、完全に電動で走行する乗り物は違法であり、罰金の対象となっていた。ニューヨーク市警によれば、2019年の違反件数は約1100件に上ったとされている。しかし、パンデミックにより多くの人々が外出を控えなければならなかった状況において、電動自転車等が食料の配達に多く利用されたことによって、一時的に罰金の対象から外され、さらに2020年11月に正式に合法となった。
 ニューヨーク以外のアメリカのいくつかの都市では数年前から合法となっていたが、ニューヨークは他の都市部に比べて車両の交通量が多く危険性が高いとして、これまで議題に挙がることはあっても合法化されることはなかった。しかし、ニューヨークの人々がパンデミックによってソーシャルディスタンスを守ることができる新しい移動手段を必要としたことで、電動自転車等の需要が高まり政府が合法化に踏み切った。

ニューヨーク市のルール
 アメリカの国としての法律(連邦法)では電動自転車や電動キックスクーターに関する定めや規定はなく、それぞれの州において大枠の取り扱いを定めており、さらに細かい取り扱いや禁止事項は、それぞれの都市において定められている。それぞれの都市は取り扱いを決めるだけでなく、州で許可されている場合であっても、電動自転車等の使用そのものを禁止する権限も持っている。
 ニューヨーク市で乗ることができる電動自転車等はクラス1~3の3種類(以下画像参照)に分けられており、スロットルによりペダルアシストの必要がない電動キックスクーターはクラス2または3に当てはまる。ニューヨーク市では、16歳以上であればクラス1~3の電動自転車等を免許なしで乗ることができるが、クラス1と2の限界速度が時速20マイル(時速約32キロメートル)であるのに対して、クラス3は時速25マイル(時速約40キロメートル)までスピードを出すことができるため、クラス3の電動自転車等に乗る際は年齢にかかわらずヘルメットの着用が義務づけられている。また、電動自転車等は自転車専用道路と時速30マイル(時速約48キロメートル)規制がかかっている道路の車道を通行することができる。


ニューヨーク市運輸局の電動自転車等の分類表(和訳)

パイロットプログラムの開始
 ニューヨーク市運輸局は、2020年に市議会で可決された法律によって義務付けられた、電動キックスクーターのシェアサービスに関するパイロットプログラムを2021年8月17日から開始した。プログラムは、ニューヨーク市運輸局とレンタル会社3社並びに地域コミュニティが協力して、電動キックスクーターの実用性や安全性及び需要を確認することを目的としている。パイロットプログラムは、多くの住民が公共交通機関から遠く離れたところに住むブロンクス東部において行われ、低価格でレンタルが可能となっている。第一フェーズは約3000台がレンタル可能となっているが、パイロットプログラムによって良い結果が得られた場合には、利用できる地域やレンタルの台数が増えていくこととなっている。


パイロットプログラムの実施地域

安全性
 今後ますます電動キックスクーターを利用する人が増加すると思われるが、大事なのはその安全性だ。ニューヨークタイムズが「ニューヨークよりも先に電動キックボードを合法化していたテキサス州オースティンでの電動キックボードの事故の調査では、負傷した190人のライダーのほぼ半数が頭部に外傷を負っていた。また、別の調査では南カリフォルニアの2つの病院で、1年間で249人が事故で救急搬送されたとされている。それでも、オースティンでの調査では、ライダーがヘルメットを着用し、より多くの予防策を講じていれば、多くの怪我を防ぐことができた可能性があるということがわかった。負傷したライダーの大多数は電動キックボードの使用に慣れていなかった。」と報じているように、乗る人それぞれが交通ルールを守り、ヘルメットやプロテクターを着用することで安全に気を付ける必要がある。※1
 また、自転車に比べて車輪の直径が小さいため、段差などがあった場合に衝撃を吸収しきれず転倒する可能性がある。日本の都市部の道路に比べてニューヨークの道路は段差などが多いと感じるため、そういった点も今後の課題といえる。

日本での電動キックボードの取り扱い
 現在、日本においても電動キックスクーターの導入が検討されており、複数の都市において実証実験が行われている。日本では電動キックスクーターは原動機付自転車として取り扱われてきたが、需要が高まったことにより、シェアリングを行う事業者が特定の区域内で貸し出す電動キックスクーターに限り特例措置が設けられている。この場合、原動機付自転車ではなくトラクターや耕運機と同じ「小型特殊自動車」に分類することなったため、自転車専用道路の走行が可能となり、ヘルメットの着用も義務ではなくなった。ただし、運転を行うにあたっては小型特殊または普通免許、自動二輪免許が必要であり、また、時速15キロ以上出せない仕様とする必要がある。自己所有で電動キックボードを運転するためには、原動機付自転車として登録を行う必要があり、自賠責保険への加入やヘルメットの着用も義務化されており、かつ、走行が可能なのは車道のみとなっている。※2

 世界中で注目されている電動キックスクーターだが、国や地域によって交通状況や、道路の幅、歩道や自転車専用道路の有無等は様々であるため、それぞれの交通状況等に合わせたルール作りが必要であろう。ニューヨークにおいても安全性等まだまだ懸念すべき点はあるため、今後もニューヨーク市におけるパイロットプログラムの結果や、安全対策等の動向を注視し、日本の参考となるような情報を発信していく。
                                    (藤本所長補佐 和歌山県派遣)

※1 ニューヨークタイムズhttps://www.nytimes.com/2020/11/23/nyregion/electric-scooters-nyc.html
※2 令和3年4月8日付け電動キックボードに係る産業競争力強化法に基づく特例措置について(通達) https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/kouki20210408.pdf