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ニューヨーク市の一部屋内施設におけるワクチン接種証明の義務化

○ワクチン接種の状況
 ニューヨーク州では2020年12月14日にCovid-19のワクチン接種が開始された。医療従事者、高齢者、基礎疾患を有する者、不特定多数と接触機会のあるエッセンシャルワーカー等を優先的な接種対象としつつ、それらに該当しない者で接種対象となる年齢要件は、75歳、65歳、60歳、50歳と次第に引き下げられ、3月末には30歳以上の、4月上旬以降は16歳以上の誰でも接種を受けられるようになった。その直後は接種希望者が殺到して予約が非常に取りにくい状態であったが、概ね1か月程度で状況は落ち着き、5月以降はむしろ接種率の伸びの鈍化が問題となって、州や市は様々なインセンティブにより接種を促している。
 8月16日時点のニューヨーク市内のワクチン接種に係る状況は、接種完了者が56.4%、一度は接種しているが未了の者が6.2%、未接種者が37.4%である(いずれも全人口に対する割合であり、接種対象外の12歳未満を母数に含む。)。また、市内5区の状況をそれぞれみると、マンハッタンとクイーンズの2区が比較的高く、残り3区が低めという傾向もみられるところである。

<ニューヨーク市のワクチン接種状況>(8月16日現在) ※市ウェブサイトより

<市内5区の接種状況>(8月16日現在) ※市ウェブサイトより

○Key to NYCについて
 昨年3月以来、Covid-19の感染拡大に対応するため緊急事態宣言が発令され、ビジネスや個人に対し様々な規制が課されていたが、段階的な規制緩和を経て、6月中旬にニューヨーク州知事は残りの規制を全て解除することを決定し、6月24日には緊急事態宣言も解除された。規制の段階的な解除のフェーズでは、例えば野球等の大規模イベントにおいて、ワクチン接種済み証明書又は直近3日以内の陰性証明書を提示させる、ワクチン接種済みの者と未接種者で席のゾーンを分ける等の措置が取られていたが、完全解除の後はそのような措置は次第にみられなくなった。
 一方で、変異株の流行等により、感染は7月上旬を底に再度増加を始めており、その感染力の強さにも鑑み、改めて対応が必要な状況となっている。そのためビル・デブラシオニューヨーク市長は8月3日の記者会見で、一部の屋内施設においてワクチン接種証明書の提示を義務化する「Key to NYC」を打ち出した。その内容を具体的に示したのが8月16日付けで発出された緊急行政命令(Emergency Executive Order)225号 である。

(1)対象者及び対象施設
 以下の屋内施設について、当該施設の従業員等、契約業者及び12歳以上の利用者のうち、Covid-19のワクチンを少なくとも1回接種していることの証明書及び接種証明書と一致する内容の身分証明書を提示しない者に対し、当該施設への立入を認めないこととする。
①屋内エンターテインメント・娯楽施設
 映画館、コンサートホール、成人向けエンターテインメント、カジノ、植物園、商業イベント及びパーティー会場、美術館及びギャラリー、水族館、動物園、プロスポーツ会場、屋内スタジアム、コンベンションセンター及び展示場、劇場、ボウリング場、ゲームセンター、屋内の子供向け遊び場、ビリヤード場等のレクリエーション施設
②屋内飲食施設
 衛生規則(Health Code)81.51条によりグレードを得ている飲食を提供する屋内の施設、フードコートの屋内部分、ケータリングサービスのうち店内飲食を提供するもの、その他ニューヨーク州農政局の規制を受ける店舗の屋内で消費する飲食の提供を行うもの。店外又は屋外のみで消費する飲食を提供する店舗、又は慈善事業として飲食物を提供するものには適用しない。
③屋内フィットネス施設
 屋内のフィットネスセンター・ジム(ホテルや大学施設等を含む)、ヨガ・ピラティス、バレエ、ダンススタジオ、ボクシング・キックボクシングジム、フィットネスブートキャンプ、屋内プール、クロスフィット等筋トレ施設、その他フィットネスクラスを行う施設

※適用除外
 ・短時間の利用の場合(トイレ、着替え用ロッカーの利用のみの場合等)
 ・ニューヨーク市民以外の者が対象となる屋内施設でパフォーマンスを行う場合(定期的に行う場合は適用対象となる)
 ・ニューヨーク市民以外の者がプロスポーツ選手として屋内施設でプレーする場合
 ・ニューヨーク市民以外の者で、上記アーティスト又はプロスポーツ選手に随行して屋内施設に立ち入る場合

(2)屋内施設(の管理者)の義務
 本命令を履行するため各施設におけるルールを定めて記録すること、また、施設利用者に対してワクチン接種義務の対象施設である旨を8.5インチ×11インチ(21.6センチ×28センチ)以上の大きさで掲示することが求められる(市は掲示のテンプレートを提供)。

(3)利用可能な接種証明書1
・CDC COVID-19 Vaccination Record Card(米国内で接種時に渡される接種記録)又は州、自治体若しくは外国政府により発行された公的な接種記録であって、氏名、ワクチンの種類及び接種日の記載があるもの(紙の記録でも、それを撮影した写真でも可)
・NYC COVID Safe App(ニューヨーク市による接種記録アプリ)
・Excelsior Pass(ニューヨーク州による接種記録アプリ)

(4)罰則
 本命令に違反した者は$1,000以内の過料に処する。12か月以内に再度違反した場合は$2,000以内の、さらに違反を重ねた場合は以後$5,000以内の過料に処する。

○運用状況
 本命令は8月17日より施行され、罰則のみ9月13日に施行される。施行に先立ちワクチン接種記録を求める施設も既に見受けられ、また、感染拡大も相まって、野外コンサート会場など本命令の対象外施設も含めてワクチン接種記録を求める例がみられるようになっている。
 一方で、接種記録及び身分証明書のチェックは事業者側の負担で実施されることとなり、特に短時間で人の出入りが頻繁にある飲食店等にとっては、人手不足の折に相当な負担となることが見込まれる。事業者向けの詳細なガイドラインが今後示されるとの記載もあり、具体的な運用状況がどのようになるのか見通せない部分もあるが、実情にあわせてどのように運用が見直されていくのかも含めて、今後の動きを注視してまいりたい。

 
【脚注】

1 接種証明書はそれぞれ以下の写真のとおりである。

CDC COVID-19 Vaccination Record Card

NYC COVID Safe App

Excelsior Pass