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米国の地方自治体訪問研修を実施しました

 クレアニューヨーク事務所では、米国の自治制度や行政運営に対する理解を深めるため、職員が米国の自治体を訪問する研修を実施しています。6月20日から25日に、ワシントン州イサクア市を訪問し、公共施設、観光施設などの視察や議会傍聴、また関係者との意見交換を行いました。

ワシントン州イサクア市

 イサクア市は、シアトル市から約25 kmほどの距離にある、人口約4万人の都市です。サマミッシュ湖の南端に位置し、クーガー・マウンテンやスクイーク・マウンテン、タイガー・マウンテンといった山々に囲まれ、イサクアアルプスという愛称で親しまれています。イサクアを起点に、周辺の山々は初級から上級まで様々なハイキングコースを楽しむことができ、また、シアトル市から車で約30分と交通のアクセスも良いため、観光客が多く訪れる街となっています。

イサクア市の市議会

 イサクア市議会は7名の議員で構成されています。議会は、一般市民が誰でも参加し発言することができ、参加者の人数制限などは特にありません。また、議会の開始時刻も夜7時からと遅い時間に設定されており、日本の市議会との違いを感じました。他にも、議会の進行役を議長ではなく市長が務めており、この点も日本とは違いました。

事務局は数名の市職員によって運営されています。現在はハイブリッド方式で議会が開かれており、オンラインで参加する議員もいました。さらに、当日の様子はYouTubeで誰でも見ることができるようになっています。今回は議会の冒頭で、クレアニューヨーク事務所の職員が視察研修に訪れていることが紹介されました。

人口増加と住宅関連施策について

 イサクア市では著しく人口が増加しており、2000年は約1万人程度であった人口が、2010年に約3万人、2020年には4万人を超えています。日本の地方自治体では人口減少が大きな課題となっているため、これほどまでに人口が増加している背景について、大変興味深く感じました。

訪問時に質問したところ、市内及び近隣にMicrosoft社やCostco社など大規模な企業の本社があることにより、そこで働く従業員が転入してきていることが人口増加の要因の一つということでした。緊急時に出社できるように距離や通勤時間が制限されている企業もあることのことでした。

 次に、Deputy City AdministratorであるAndrea Snyder氏から市の住宅関係施策について伺いました。市では人口増加に伴い賃料の急激な値上がりや住宅不足が課題となっています。一般的な世帯年収とMicrosoft社のような大企業で働く人の年収には数倍以上の違いがあり、このままでは、一般的な家庭では市内で住居を借りられず、救急隊員・警察・教員などのエッセンシャルワーカーや、様々なサービス業の従事者が住めなくなってしまうばかりでなく、ホームレスの増加も懸念されます。

 そのため、市はディベロッパーと共同で、市場価格の住宅の他にAffordable Housing(手頃な価格の住宅)の建設を進めています。本プロジェクトにはカウンティ(郡)の税収が利用されていますが、開発自体は民間ディベロッパーが行っているため、市で莫大な開発費用を負担しているわけではありません。

 日本では、一般的な収入がある家庭に対してこのような形で公共が支援する事例は少ないので、とても新鮮な内容でした。また、Snyder氏は「本施策について住民に説明する際に『将来子どもが市に帰ってきたいと思ったとき、賃料が高くて帰ってこられない市にしたいか?』と聞くと必ず『No』と答える。」と話しており、未来の市の在り方を考えたうえで市のデザインをしていることが見受けられ印象的でした。

Issaquah Salmon Hatchery

 主要観光地の一つであるSalmon Hatchery(サケの養殖場)を訪問し、本施設を運営しているFriends of the Issaquah Salmon Hatchery(FISH)のRobin Kelley氏に案内していただきました。養殖場はダウンタウンにほど近い場所に立地しており、気軽に立ち寄ることができます。サケが遡上する時期は秋であるため、私たちは残念ながらその光景を観察することはできませんでしたが、敷地内には養殖場の設備のほか、説明板や屋内施設もあり、サケの生態について深く学ぶことができるようになっていました。

 FISHは非営利組織で、イサクア市、キング郡、地元企業などがファンディングしており、施設には無料で入場することができます。また、子どもたちへの教育に力を入れており、市内だけでなく、市外からも多くの生徒が見学ツアーに参加しています。施設内には本施設を訪れた子どもたちの寄せ書きが掲示されていました。屋内施設では10分間程度のビデオを観ることができるようになっているほか、現在日本語を含む6か国語のオーディオガイドを準備中とのことでした。毎年秋に行われるSalmon Daysは、150,000人ほど集まる同市の一大イベントであり、地域経済にも大きな好影響をもたらしています。サケはイサクア市のロゴにもなっており、観光、教育などの分野だけでなく、同市のアイデンティティの一つとなっていることが窺われました。

街を観光地にする取り組み

 イサクア市では、ダウンタウンの活性化にも力を入れています。特に印象的だったのは、公道にテラス席を設置する取り組みです。テラス席の設置により店舗の収容人数を増やすことができ、地域経済の活性化が期待されます。また、路上の駐車スペースを明確にすることによりダウンタウン全体が歩きやすくなるような環境を整備しています。その他にも、公道の一区間を歩行者天国にし、市民がイベントなどを行えるように整備を進めていました。ダウンタウンを活性化することで、ハイキングが目的だった多くの観光客に、ダウンタウンでの街歩きも楽しんでもらうことが期待されています。

 日本でも地域経済の活性化は課題となっており、地域の商店街や中心市街地を活性化させる取り組みは多く見受けられます。米国の地方自治体においても同様であり、様々な工夫がされていると感じました。

研修を終えて

 今回の研修を終えて、米国の地方自治の特徴や日本のとの違いを知ることができました。また、共通の課題や参考となる施策を多く知ることができたことは、今後の業務において貴重な体験となりました。さらに、同年代の市職員と雑談を交えながら意見交換することができ、活躍する彼らを見て多くの刺激を受けた研修となりました。

 改めて、今回の訪問を快く受け入れてくれたイサクア市へ深く感謝するとともに、研修で学んだことを活かせるよう、これからも業務に取り組みたいと思います。