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アメリカ人の政府観 ~連邦政府、州政府、地方政府の信頼度~

背景

1998年以来、毎年、ピュウ・リサーチ・センター(the Pew Research Center for the People and the Press)では、アメリカの連邦政府、州政府、地方政府に対する人々の意見や好感度を測定するための世論調査を行っている。質問は年によっていくぶん異なるものの、基本的なテーマは一貫している。また、同センターは、どちらかといえば州政府と連邦政府に着目する傾向にある。最後に、調査の結果は、一般的に全国ニュースで報道され、テレビや新聞で大々的に取り上げられる。

日本でも通信社や新聞による世論調査がよく行われていることから、日本の中央政府、地方政府は以下の様な点に注意すべきである。ひとつは、この世論調査は、利益団体によって、特定の政策や政治家、政党を攻撃又は擁護するために用いられているということである。さらに、日本における世論調査の対象は、基本的に中央政府に関する事項であり、都道府県・市町村レベルにはあまり注意が払われていないが、地方分権が進むにつれ、一般国民の関心は都道府県・市町村に向いていくと考えられる。したがって、特に世論が国民対話の基礎的要素であるアメリカでのこの世論調査の結果は、注目に値する。

ハイライト

図1 10年間の政府に対する評価の推移

最新のピュウ・リサーチ・センターによる世論調査に関しては、主に二つの点が指摘できる。まず第一は、連邦政府(Federal)に対してわずか1/3のアメリカ人しか肯定的な意見を持っておらず、概ね2/3のアメリカ人は連邦政府を否定的に見ている、ということである。調査を受けた人はほとんど肯定・否定のいずれかを選び、どちらでもないという回答はしていないようである。連邦政府を肯定的に評価うする人々の割合は、過去15年間で最低記録である。偶然にも、1995年にギャラップ社が行った調査によれば、39%のアメリカ人が、連邦政府は彼らの権利と自由にとって「差し迫った脅威」であると考えていた。その反応に驚いたギャラップ社は、「差し迫った」という言葉を削除した上で同じ質問による調査を行った。すると、連邦政府が脅威であると考える人の割合は52%となった。この世論調査が行われたのは、オクラホマの連邦政府ビル爆破事件の数週間前のことであった。

第二の点は、図1から見て取れるように、過去10年間(2002年-2012年)、一貫してすべての階層の政府について、肯定的反応を示す人の割合が減少しているということである。もっとも衝撃的なのは、連邦政府に肯定的である人の割合が、2002年の64%から、2012年には33%と大きく減少していることである。この下落の理由の一部には、911テロ事件に続いて行われた対タリバン及び対イラク戦争がある。2000年10月下旬、連邦政府に肯定的である人の割合は54%であったが、2001年11月半ばには82%となり、2002年12月にはそれが64%となり、対イラク戦争が始まった後の2003年4月には73%となった。

州政府(State)については、減少幅はずっと少ない。62%から52%への減少である。ところで、州政府に対して肯定的な人の割合も、2001年には77%へと一時的に跳ね上がっている。地方政府(Local)が最もよい評価だが、67%から61%に減少している。2001年11月には78%であった。

否定的な人の割合は、当然のことながら逆の傾向にあり、すべての政府について上昇してきている。2002年には、どのレベルの政府についても、否定的な人の割合は過半数に達していなかったのに対し(州政府が最も低く31%であった)、2012年には62%ものアメリカ人が連邦政府を否定的に見ている。これは、州政府の42%、地方政府の31%に比べると非常に高い割合である。

図2 所属政党と政府に対する肯定的態度の割合

詳細

所属政党は人々の態度を決定する重要な要素となっており、また、人々が自分の所属政党によって決めた態度は容易に変わらない「硬い」意見となる。図2は、この硬さの様子を示している。

連邦政府

事実の背景にある詳細を見ると明らかなことは、支持政党による相違である。2012年には、民主党支持者の51%が連邦政府を肯定的に見ている。独立系では27%、共和党支持者では20%に過ぎない。では、この支持政党による見方の違いを、ジョージ・ブッシュ大統領の時代と比べてみよう。2008年には、民主党支持者のわずか29%しか連邦政府に肯定的な見方をしていなかったのに対し、共和党支持者の53%と独立系の33%が連邦政府に肯定的であった。これらのアメリカ人の見方は、ジョージ・ブッシュ大統領のもとでは8年をかけて形成されたのに対し、バラク・オバマ大統領の政権は4年でしかなく、単純に比較可能なものではない。しかしながら、ひょっとすると、今回の調査結果から導かれるより興味深いことは、現政権における世論の変化であろう。2009年から2012年にかけて、アメリカのすべての政党支持者は、連邦政府を信頼しなくなってきているようである。全体としてみると、その変化は9%である。政党ごとに見ると、変化はさらに顕著で、共和党については、驚くことではないが、最初から肯定的でないことからわずか4%しか下落していない。しかし、民主党支持者と独立系については大きく下落しており、前者は10%、後者は8%の下落である。

州政府

州政府に対する見方は、いくぶん連邦政府に対する見方が反映されている。しかし、違いがある。州政府に対する信頼度は2008年から2009年にかけて下落しているが、これは、金融危機とその影響が原因の一部である。それ以来、州政府を肯定的に見る人の割合は下げ止まっている。(実際のところ、50%から52%へと、わずかながら上昇している。)

図3 支持政党と州政府に対する評価の関係

州政府に対する見方についても、政党が重要な役割を果たしている。全体としてみると、州政府を肯定的に見る人の割合は、2012年には、共和党支持者は62%、民主党支持者は50%、独立系は49%となっている。知事・議会(上院・下院)とも同一政党が支配している州と、州知事・議会(上院・下院)で支配政党が違う州を比べると、とても興味深い事実が判明する。共和党が支配している州は、2012年には21州あるが、州政府を肯定的に見る人の割合は56%、否定的に見る人の割合は39%である。民主党が支配している州は、2012年には11州であるが、州政府を肯定的に見る人は47%、否定的に見る人は48%である。この差は際立っている。評論家は、これらの結果は、アメリカ人が何を支持し、何を嫌悪するかを物語っていると見る。

もう少し詳しく見てみると、図3に示すように、所属政党による対照性がよりはっきりする。共和党政権の州では、自分が共和党員又は共和党よりであるというアメリカ人の70%が州政府を肯定的に評価しており、否定的な評価は39%に過ぎない。一方で、民主党支持層で州政府を肯定的に評価する人は43%に過ぎず、否定的な評価が52%である。民主党政権の州では、民主党支持層で州政府を肯定的に評価しているのは55%であり、40%が否定的である。共和党支持者は民主党政権の州政府に対しわずか33%しか肯定的な評価をしておらず、64%が否定的である。知事・議会(上院・下院)で支配政党が分かれている18州では、州政府の支持率は幾分均衡しており、共和党支持層も民主党支持層も55%が肯定的な評価をし、40%が否定的な評価をしている。

特記事項

この世論調査は、調査対象者により具体的な意見を求めることにより、アメリカ人の州政府と連邦政府の活動に対する態度をより深く掘り下げようとしている。

  • 汚職。汚職に関する質問は、通常、感情的な回答を引き出すものだが、にも関わらず、この世論調査では、教育的な視点を導き出している。州政府と連邦政府のどちらが清廉であるか、腐敗しているか、との質問に対し、回答ははっきりとわかれた。49%の回答者が州政府が清廉であると回答したのに対し、連邦政府が清廉であると回答したのはわずか31%であった。さらに、州政府が腐敗していると回答したのは37%であったのに対し、過半数(54%)が連邦政府は腐敗していると回答した。この違いは印象的である。
  • 政府の政治的性質。政府の党派性についての質問でも、州政府と連邦政府の評価は同じように分かれている。すなわち、若干過半数を上回る回答者(53%)が州政府が党派的過ぎると回答したのに対し、連邦政府については75%の回答者が党派によって分断されていると回答している。
  • 政府の運営。政府の運営方法と、政府が全体として問題に敏感に対応しているか、という事に関し多数の質問が行われた。もっとも衝撃的な結果は、税金の使い方に対する評価である。州政府が税金を賢明に使っていると評価したのは33%に過ぎない。連邦政府は更に低く、わずか1/6であった。また、州政府は効率的である、州政府は住民のニーズに対応している、州政府は必要なことをやり遂げた、という3つの質問のいずれについても、概ね10人中4人が肯定的に評価している。この回答は、連邦政府に対する評価と対照的である。連邦政府については、効率的である、又は必要なことをやり遂げた、という2つの質問には、10人に2人しか肯定的に回答していない。連邦政府が国民のニーズに対応していると回答したのは10人中3人であった。
結論

この世論調査のもっとも特筆すべき側面は、アメリカ人の連邦政府と州政府に対する見方の違いである。人々は、一定の距離をおいて生活に直接の影響を与えることなく運営される中央政府よりも、より身近で有形のもの(州政府)を好む。このことは、ひょっとしたら、アレクシス・ド・トクヴィルが1830年代にアメリカを旅して気づいたとおり自明の理であるかもしれない。州政府も幾分人々から距離のある政府だとしても、この点は世論調査において極めて明確に証明されている。

一方で、すべての階層の政府に対して、人々の不信は過去10年以上に渡り、増大し続けてきているという事実がある。この世論調査でアメリカ人に投げかけられた質問は、その不信の確固たる原因を引き出したわけではないが、回答に共通するテーマは、連邦政府はほぼ確実に、州政府についても一般的に、期待されている役割を果たせていない、と人々が考えていることを示唆しているように思われる。

2012年6月28日

Senior Researcher Seth B. Benjamin

訳 上席調査役 川崎穂高