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2022ニューヨーク州知事選の動向

 コロナウイルス感染拡大による影響で未だに世界中で混乱が続くなか、ニューヨークでは早くも2022年11月に行われる州知事選挙のニュースが出始めている。

州知事選の概要

 アメリカ合衆国では各州で選挙制度を定めている。ニューヨーク州では、州憲法により、知事選に出馬するためには、満30歳以上のアメリカ国籍を有する者で、選挙直前に5年以上ニューヨーク州での居住歴があることが要件として定められている。また、州知事の任期は4年であるため、選挙は4年周期で行われており、11月の第一月曜日の属する週の翌日である火曜日(2022年は11月8日)が投票日として定められている。就任日は翌年の1月1日となることから、2022年のニューヨーク州知事選により当選した新知事の就任は2023年1月1日となる。なお、アメリカ合衆国で投票するためには、投票する資格を有する市民が居住地において自ら登録する必要がある。

現政権及び支持層の状況

 現在の州知事は民主党のアンドリュー・M・クオモ知事であり、2011年1月1日の就任から第3期を迎え、同氏は来年の選挙においても立候補を表明している。クオモ氏は過去2回の選挙で共和党候補に圧勝しており、コロナウイルス対策においては毎日実施した記者会見が世界中から注目を集め、その経緯を記した回顧録も多額の売上を記録した。政治資金も潤沢に有している。しかし、クオモ知事は現在疑惑の渦中にある。ニューヨークタイムズは「クオモ知事は、コロナウイルスの大流行からニューヨークを救ったことで広く知られているが、老人ホームにおけるコロナ対応に関するスキャンダルに巻き込まれている。問題となったのは、ウイルス患者が病床を圧迫しないようにするのが目的で、2020年3月に老人ホームに対して、ウイルスの治療を受けて病院を退院した入居者を引き取るよう命令を出したが、その老人ホームでの死者数を正確に報告していなかった一件である。クオモ知事は老人ホームのデータの透明性が欠如していたのは間違いだったと認めたが、完全な謝罪をすることはなく、この問題について批判し調査を繰り返し迫ってきた民主党議員を激しく非難した。」※1と述べている。この件に加え、クオモ知事はセクシュアル・ハラスメントに関しても調査を受けており、同氏にとって風向きがいい状況とは言えない。

 とはいえ、支持層の動向についてみると、ニューヨーク州における民主党の登録有権者数は約675万人にのぼり、これに対して共和党員は約291万、無党派層は約301万人(2021年2月21日時点)※2となっている。加えて、連邦議会の上院議員(上院議員は各州から2名ずつ選出される)は2名とも民主党であり、27議席ある下院議員のうち19議席を民主党が占めているため、いわゆる「ブルーステート」(アメリカでは民主党は青、共和党は赤で表現される)と呼ばれている。したがって、仮にクオモ以外の候補であったとしても、民主党候補が有利であることには変わりはないと考えられる。

【連邦議会上院の選挙結果】


(270toWINより引用https://www.270towin.com/states/New_York

【連邦議会下院の選挙結果】


(270toWINより引用https://www.270towin.com/states/New_York

1994年の知事選における共和党の勝利と現在の状況の比較

 現在の状況を1994年の知事選になぞらえる見方もある。すなわち、当時は無名であった共和党のニューヨーク州上院議員ジョージ・パタキ氏が、当時の州知事であり4期目をかけて出馬した民主党のマリオ・クオモ氏(アンドリュー・M・クオモ現知事の父親)を抑えて劇的な勝利をおさめた件である。アメリカの日刊新聞Newsdayは、「GOP path to victory remains unclear for NY governor’s race(ニューヨーク知事選における共和党の勝利は依然として不透明)」と題した記事のなかで、「現在の状況は27年前の状況と非常に似ている」と述べている。1994年当時、ほとんどのニューヨーカーは、1980年代から1990年代初頭にかけて犯罪率が上昇していたため死刑執行を支持していたのに対して、マリオ・クオモ氏は死刑に反対していた。そこでパタキ氏は、過失致死罪で有罪判決を受けたのちに1987年にニューヨークで仮釈放され、釈放中に追加の殺人を犯したアーサー・シャウクロス事件を題材にネガティブキャンペーンを行った。これによってマリオ・クオモ氏に対する支持が大幅に失われ、パタキ氏は共和党支持者の票を堅実に勝ち取るとともに、マリオ・クオモ氏にうんざりしていた民主党支持者の票を得た結果、勝利することができたと言われている。

 しかし、同記事中では、1994年当時とは違う点として、州内の共和党の登録有権者数が約3分の1も減少しており、支持基盤が弱体化していることを指摘している。そのため共和党候補者は同党支持者の票を固めるだけでなく、当時より多くの民主党支持者の票を得ることが必要となるが、ここで候補者に迫られるのがトランプ元大統領に対しどのようなスタンスをとるかである。「共和党が勝利するためには、合理的にトランプ元大統領を肯定しないと、トランプ元大統領を支持する共和党支持者の票を得ることは難しい。一方で、肯定しすぎることによって、トランプ元大統領を嫌悪する民主党支持者の票を獲得することが難しくなるだろう」との意見が示されている。トランプ元大統領支持者による国会議事堂襲撃事件は今でも記憶に新しいが、トランプ元大統領の共和党内での影響力は未だに大きいとみられている。

 現時点では、民主党は、クオモ知事の疑惑など懸念する事案はあるが、過去2回の知事選挙では勝利を収めており、また、有権者数も圧倒的に共和党を上回っている状況である。しかし、まだ選挙まで1年以上の期間があり、候補者も出そろっていないことから、ニューヨークでの生活を通じて住民の感情や各党の動向を身近で感じながら、今後の選挙の動向を引き続き注視していきたい。

※1 ニューヨークタイムズ https://www.nytimes.com/article/andrew-cuomo-nursing-home-deaths.html

※2 ニューヨーク州HP https://www.elections.ny.gov/EnrollmentCounty.html

                                   (藤本所長補佐 和歌山県派遣)