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米国の経済社会活動再開:ニューヨーク州の取組みを中心に

1月20日に米国初のコロナウイルス感染者が発生してから、およそ5か月が経ちました。
実際、米国で感染が拡大し始めたのは2月下旬からであり、3月上旬に各州及び連邦政府が次々と緊急事態宣言を発出し、3月中旬以降は営業規制、隔離対策、外出禁止また自粛令などの具体的な対応策が発出されました。4月下旬以降、感染者数の減少などに伴って、各州において経済活動の再開が順次始められています。

○危機管理対応の仕組みと役割分担

日本では、新型コロナウイルスの対応は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき行われています。緊急事態の宣言や解除は国が行うこととされており、4月7日に7都府県、16日にその他の40道府県も含めた全国に対し緊急事態宣言が発出された後、各地域の感染収束状況に応じて、5月14日、21日、25日の3段階に分けて解除されています。具体的な対応は各都道府県の状況に応じて知事が判断し実施しますが、特措法の枠組みに基づき、特措法で与えられた権限の範囲で実施するという意味で、一元的な仕組みとなっています。

一方、米国の場合、危機管理や公衆衛生は各州の法令に基づいて実施されるのが原則です。連邦政府は連邦法(Stafford Act等)に基づいて必要な支援等の対応を行います。
一般的な災害対応の流れは、まず市町村が対応し、必要に応じて州に支援を依頼します(今回の新型コロナウイルスのような甚大なパンデミックの場合は、市町村では対応できないので当初より州知事が直接指揮を取っています。)。州においても十分に対応できない大規模な災害の場合、連邦政府がFEMA(連邦緊急事態管理庁)を通して援助を提供します。
このように、各州の制度に基づく対応と、連邦政府の支援が組み合わさった災害対応の仕組となっていることから、「米国の対応」を一元的に説明することは不可能です。「米国各州の対応」というのが正確であり、対応の内容はもとより、意思決定の系統が異なります。
各州の感染者数は、最も多いニューヨーク州で約38万人、最も少ないアラスカ州で500人弱と大きく差があります。また、各州の人口密度も相当異なります。そのため、各州の対応は、外出禁止令や営業規制を発出した州もあれば、自粛程度にとどまった州もあり、内容的に大きく異なっています。

なお、連邦政府は、州や自治体において不足する物資や人、また財政的な支援を行うほか、高度に専門的な知見に基づく情報提供を行っています。経済活動再開に向けたガイドラインとして、ホワイトハウスは”Opening Up America Again”を4月16日に公表したほか、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインも5月14日に発表されました。

○ニューヨーク州による経済活動再開の取組みについて

3月中旬以降、感染拡大防止のため各州で様々な規制が設けられてきましたが、4月下旬以降、新規感染者数、入院者数等の減少を踏まえ、経済活動再開に向けた動きが始まっています。

全米で最も感染者数の多いニューヨーク州では、4月上旬が感染拡大のピークで、その後徐々に新規感染者数等が減ってきたことから、クオモ州知事は5月11日に経済再開計画を公表しました。この計画は、州の10の地域をベースに、州が設定した7つの基準を各地域が満たしているかによって再開の可否を判断する仕組みとなっています。再開の進め方の詳細は各地域のカウンティや市町村が参加する”control room”が企画や実施を担当します。

具体的には:

  1. 感染の状況
    • ①新規入院者(3日間平均)が14日間連続で減少、又は1日当たり15人を下回ること
    • ②死者(3日間平均)が14日間連続で減少、又は1日当たり5人を下回ること
    • ③人口10万人に対し新規入院者(3日間平均)が1日当たり2人を下回ること
  2. 医療提供体制
    • ④病床に30%以上の空きがあること
    • ⑤ICU病床に30%以上の空きがあること
  3. 検査及び追跡の能力
    • ⑥1か月間に人口の3%の検査を実施する能力を有すること。
    • ⑦人口10万人に対し最低30人の追跡実施要員を有するとともに、感染の件数に応じて必要な人員を確保すること

各地域は、この7つの基準をすべて満たした上で、業種により以下の4つのフェーズに分けて順次再開することとされました(各フェーズの間は最低2週間空ける)。

  • フェーズ1:建設業、製造業、卸売業、小売業の一部
  • フェーズ2:オフィスワーク、金融・保険等の専門サービス、不動産、小売業
  • フェーズ3:レストラン、飲食サービス、ホテル
  • フェーズ4:芸術、エンターテインメント、教育
  • 事業を再開する際には、職場内でのソーシャルディスタンシングや従業員へのマスク・サニタイザーの提供など、予防措置をとることが求められます。また、不特定多数の集まる場での感染拡大を防止するため、店舗に入るとき、公共交通機関を利用するとき等にマスク等の鼻と口を覆うものを身につけることが義務化されました。

    もう少し詳しく説明すると、ニューヨーク州は二つに分かれているとよく言われています。「ニューヨーク」と言うと、おそらく、殆どの人がニューヨーク市を想像するでしょう。市とその周辺のカウンティが「ダウンステート」と呼ばれています。しかし、ニューヨーク州の人口の約三分の一はそれ以外の何十倍広い「アップステート」のほうに住んでいます。人口が密集している大都会とその郊外であるダウンステートと市町村が散らばっている農業や観光に主に頼る広々しているアップステートは、アメリカ全体と同じように、場所によって状況がかなり違います。その二つの地域をさらに詳しく区分けると、10の地域・リージョンがあります。5月15日以降アップステートの地域が順次フェーズ1に入り、ダウンステートのニューヨーク市以外の地域が続き、6月8日よりニューヨーク市もフェーズ1に入りました。アップステートは既にフェーズ2に入っています。

    他の州も、感染者数の動向などを見ながら外出制限や営業規制等を緩和する方針を実施しています。各州の具体的なやり方やスケジュール感は異なりますが、経済的な影響を軽減しつつ、感染者数の再拡大につながらないようやり方を工夫しています。また、方針決定の地域的単位も異なります。ニューヨーク州のように地域ごとに決定するところもあれば、決定が州全体に同時に施行されるところもあり、また、カウンティの単位によるところもあります。

    全米の州の再開状況をトラッキングするのに、New York Timesのサイトが便利です:https://www.nytimes.com/interactive/2020/us/states-reopen-map-coronavirus.html。これを見ると、社会の閉鎖と再開の政策と新規感染者のレートが比べられます。

    ○州の連携による取組み

    複数の州の合同体による取組みもあります。クオモ知事が4月13日に、ニューヨーク州が北東の6つの州と共に再開の方針や手段を調整しながら前に進むと発表しました。各州の判断が周りの州に影響を与えないように相談しあうと説明しました。また、5月3日に、この「連盟」はコロナウイルス対策のための調達も合同で行うと発表しました。このような「地域連盟」は、西部のカリフォルニア州・オレゴン州・ワシントン州・コロラド州・ネバダ州の五州と中西部のミネソタ州・ウィスコンシン州・ミシガン州・イリノイ州・インディアナ州・オハイオ州・ケンタッキー州の七州の連盟もあります。各州連盟の協力体制が多少違う形をとりますが、大体、北東の連盟同様、州ごとの政策・実施の調整やコロナウイルスに対処するための調達、連邦政府などに対する請求や合同声明の発表などに協力する仕組みとなるようです。しかし、現時点で、実際にどの程度の効果と州間の調整があったかは不明瞭です。

    全米知事会も州知事を代弁してトランプ政権にサポートを呼び掛けています。4月17日の合同声明で州政府に対する助成金を要望しました。

    ○おわりに

    大半の州で新規感染者数は減少傾向にありますが、これから、営業や外出の再開が進んだ際にそれが続くか注視する必要があります。今すぐにウイルスを根絶することは困難であり、ワクチンができるまでは、十分に予防措置をとりながらできることをする新しい行動様式が求められていくのだと思います。

    Matthew Gillam

    上級調査員

    2020年6月9日