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ニューヨークにおける都市農業について - 上

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ニューヨーク市における都市農業の背景

セントラル・パークを除くと、ニューヨーク市の典型的なイメージとしては、マンハッタンの摩天楼あるいはブルックリンのタウンハウスの風景が思い浮かぶであろう。しかし、実際には、市内には公園以外にも緑地がかなりある。最近、屋上などにも広がり、場所によっては昔の農業が盛んだった頃のニューヨークを思わせる。ただ、現在の農業の目的は農作物を栽培するだけではない。

現在のニューヨーク市は、1898年の合併により数々の市町村から形成された。現在の市域の大部分は農場や小さな家庭菜園によって占められていたが、輸送技術が発展しインフラが整備され、遠くから低コストで食べ物を運べるようになった。結局、耕作をやめた農業地が徐々に市街地化されてきた。

20世紀後半以降に「都市農業」と呼ばれることになるものの多くは、1960年代に深刻化した、市の財政危機や市外への住民流出に端を発している。賃貸料を払う者がいないために放棄された建物は、保険金目当てに火をつけるか、荒廃して市に解体されるまで放置され、空き地が拡大した。空き地にはゴミが散乱し、薬物の売人や乱用者が集まるなど、治安の悪化を招いたため、住民は空き地をどのように清掃し、近隣のために改善、利用することができるかを検討し始めた。まずは「ゲリラ農業者」がフェンス越しに、堆肥や植物の種を投げ込むことから始まり、続いて実際に敷地に分け入り、ごみを清掃し、苗床や小径を整備して農園を造り始めるようになった。

ニューヨーク市政府、特に公園局や植物園等の機関、その他の団体も、徐々にこれらの農園の支援に携わるようになった。これをベースに、近年では、Brooklyn GrangeやGotham Greensのような持続可能で、より規模の大きい、採算性のある農業を営もうとする事業者が現れて来た。

現代のニューヨーク市における「都市農業」は、食物を栽培すると共に、地域社会の活性化、都市の強靭性や持続可能性の向上、公衆衛生の改善、経済発展や社会的公正の促進、住民福祉の向上に貢献するその他の目標を達成する上で、ますます重要となっている。

ニューヨーク市における都市農業関連部署及び関連団体並びにその体制について

以上で述べたように、基本的に二種類の都市農業がある。一つは、ヴォランティアによりグループが形成され、近所・コミュニティのために、非営利で運営する。もう一つは、営利事業として、比較的に規模の大きな「農場」で営まれる。しかし、両方とも、作物を売ったり、ヴォランティアを利用したり、教育プログラムや町おこし事業を行ったりするので、完全に区別することはしがたい。今回のブログ投稿は前者の「コミュニティガーデン」とそれをサポートする機関について説明するが、後者の最近現れてきた「農場」については、次回取り上げる。

New York City Department of Parks and Recreation: GreenThumb

http://www.greenthumbnyc.org/

GreenThumb(園芸の才)はニューヨーク市公園局に所属する部署である。同部署は市内におけるコミュニティガーデンやその他の緑化施策を主に所管している。現在、およそ1,000平方フィート(約92平方メートル)から5エーカー(約2万平方メートル)の規模に及ぶ約550のコミュニティガーデンと協力している。

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Green Thumbのディレクター、Bill LoSasso氏によると、Green Thumbが関わっているコミュニティガーデンのうち、約400は公園局の管轄地にあり、今後も半永続的な使用が見込まれている。また、10から20は市の他部署(交通局、環境保護局等)の管轄地にある。そして、およそ150は、New York Restoration Project(https://www.nyrp.org/)などの民間の土地信託団体によって運営されている。

GreenThumbは、ガバナンス体制、公共アクセシビリティ 、その他手続きに関する指針など一連の規則に同意した農園に、ライセンスを付与している。ライセンスが与えられると、農園の存続が保障され、市の各機関の協力や支援を受けることが出来る。4年ごとに規則を遵守しているか評価されることとなっており、GreenThumbとの取り決めを遵守しているとみなされる場合に限り、ライセンスが更新される。

特に重要なことは、ニューヨーク市では、農園や農業などについての用途地域(ゾーニング)指定はなく、農業活動を行う場所についての規制が一切ないことである。このような融通性は、農業を通して近隣の地域を変えていこうとする、コミュニティや個人の率先した取組みにとって、重要な要素である。

GreenThumbは、未使用または放棄された土地をコミュニティガーデンに変えたいと望む人々とともに働いており、コミュニティが利用できるよう、土地をGreenThumbの管理に移すために、市の各機関との交渉を行っている。このような交渉は、ハリケーンサンディ以来、緑のインフラを通じた都市の持続可能性や強靭性の強化が重要性を増す中で、容易になってきているという。LoSasso氏によると、コミュニティガーデンの開発がコミュニティ・ビルディング、つまり、地域づくりにどれほど貢献するものであるかが明らかになってから、現在、「コミュニティ」という言葉が「ガーデン」という言葉と同じ程度重視されているそうである。

GreenThumbは、この事業に参加するコミュニティガーデンの位置情報をウェブサイトに掲載している:http://www.greenthumbnyc.org/gardensearch.html。面白いことに、これを見ると、載っているガーデンのほとんどは、60年代から社会的・経済的に様々な問題を抱えてきた一方で、コミュニティの意識が根強く残る地域にある。

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GrowNYC

https://www.grownyc.org/

GrowNYCはニューヨーク市とは独立した組織であるが、市と連携している501c3条項で認められた非営利団体で、元々1970年にニューヨークのジョン・リンゼイ市長によって市が直面していた環境問題への対応策を考えるシンクタンクとして設立された。その後、政策の形成から実施に活動が変わってきて、現在、市内のグリーンマーケットの運営、コミュニティガーデンの支援、リサイクル活動など、さまざまな教育イニシアチブの支援を行っている。

実際には、グリーンマーケットの流通網は市から何百マイルも離れたところまで拡大しており、市の5つの区内で農作物の生産を行っているのは、ごく少数である。

GrowNYCはGreenThumbと合同で、90以上のコミュニティガーデンを作ってきた上に、何百ものガーデンに対して技術提供やグリーンインフラ整備等の支援も行っている。また、Grow to Learnの事業と合同で町中の市立学校にガーデンを設置する取り組みを行ってきた。

Botanic Gardens

https://www.bbg.org/community

ブルックリン植物園は、Brooklyn Urban Gardener Certificate Program(BUGブルックリン都市農業者認証プログラム)やCommunity Garden Alliance(コミュニティガーデンの提携)など、数多くのプログラムを通じてコミュニティの緑化を支援している。これらのプログラムでは、ブルックリン区周辺すべての会員のコミュニティガーデンに対し、指導、技能開発、ネットワーキング、年次集会や植物の贈与を行っている。持続可能な農園づくり・地域づくりに重点を置いて行われている。

New York Botanical Garden: Bronx Green-Up
http://www.nybg.org/green_up/index.php

ニューヨーク植物園はBronx Green-Up Program(ブロンクス緑化プログラム)を通してブロンクス区を中心とするコミュニティガーデンの支援を行っている。このプログラムは、空き地をコミュニティガーデンに変えようと働きかけを行う住民グループの活動を支援するために1988年に創設された。各種農園、都市農家、学校、コミュニティグループに教育、訓練、技術支援を行っている。ウェブサイトによると、ブロンクスのコミュニティが運営するファーマーズマーケットに7つのコミュニティガーデン・都市農家が関わっている。

New York City Community Garden Coalition

http://nyccgc.org/

ニューヨークのコミュニティガーデンは明らかに生活環境の改善やコミュニティの強化を果たし、市内に住むことを改めて魅力的にすることによって同市の復活に貢献してきたが、1990年代から、この成功がかえってガーデンの存在を脅かしてきた。

1996年に、NYCコミュニティガーデン連合は設立された。主な目的は当時のジュリアーニ市長の政策に反対の声を上げることだった。ジュリアーニ政権は、市内に住居を求める人の増加に対応し、1960年代から滞納して差し押さえた数多くの空き地を開発業者に売り、売却の利益と開発後の固定資産税等によって収入を得る方針を示していた。しかし、沢山の「空き地」は既にコミュニティガーデンになっていたので、連合等のグループを含むガーデン側は、長年占有を放置していながら急に所有権を主張しようとするのは妥当ではない上に、そのコミュニティに損害を与えると訴えた。訴訟を起こしたりデモを行ったりして、最終的に和解し、同意書を提携、多くのコミュニティガーデンを守った。それ以降、コミュニティガーデンの為に弁護し、擁護すると共に、Gardens Risingという強靭性を高めるプロジェクト等にも携わっている。

視点はやや一方的である恐れはあるが、この時代の歴史について更に知りたい場合には、http://nyccgc.org/about/history/を参照してください。

最後に


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もちろん、この様々なプログラムは市民の努力無しでは成功することはなかった。大勢の人が、自分の手で自分のコミュニティのために空き地をガーデンにつくり変えて、自家製の「町おこし」を果たした。コミュニティガーデンを支援する行政の機関や植物園などは、市民の努力を察知し認め始めてからしか事業を形成・実施せず、市民の活動を追いかけようとしていたとも言える。

Matthew Gillam
Kaori Ito

May 2017