カーボンニュートラルな都市を目指すニューヨーク市の取組み

 海と川に囲まれたニューヨーク市では、この約100年の間に平均気温が2.2℃上昇し、近年地球温暖化が原因とみられる海面上昇により、高潮被害に度々悩まされている。ニューヨーク市において、温室効果ガス排出量削減をはじめとした地球温暖化対策は市の施策の大きな柱の一つとなっている。2019年4月、デブラシオニューヨーク市長は、グリーンニューディール(Green New Deal)プランを発表した。140億ドルの新たな投資等を通じて、排出量を2030年までに2005年比でおよそ30%削減するとともに、2050年までに100%クリーンエネルギーへ変換させることでカーボンニュートラルな都市(※1)を目指すことを宣言した。市は気候変動問題に関する国際枠組合意であるパリ協定に沿った取組みを行うとともに、今後10年間において排出量を大幅に削減して、Net-Zero (実質排出量ゼロ) を目指すことを表明している。また、市の事業運営に必要なエネルギーを100%クリーンエネルギーに変え、公用車の二酸化炭素排出量の削減やエネルギー効率が悪いガラス張りの建物の建設禁止を定めた計画の発表を行った。市が保有するビルに限ってみると既に2005年比で30%の排出量の削減を達成しており、今後は2030年に向けて50%の削減を目指している。また、市内の温室効果ガス排出量のおよそ70%は住宅や商業用ビルが占めていることから(※2) 、市内全ての大規模ビルに対しても、排出量の削減を求めていくこととしており、市は新しく建設されるビルのみならず、ほぼ全ての建物に対しエネルギー効率の大幅な改善を求めている。例えば、ビルを新設する際には、市が定める厳格なガイドラインの基準を満たさない限り、全面ガラス張りのビル建設は認められないことになっている。また、既存のガラス張りのビルに対しては、エネルギー効率の改善に向けて対策を講じるよう指導が行われる。

 ニューヨーク市建設局(The Department of Buildings)は、2020年4月に50周年を迎えたアースデイ(※3)に合わせてエネルギーの効率化を図る革新的な取組みを募集するコンペティションの開催を発表した。同年9月に開催された建設業界を対象としたデジタル産業会議Build Safe Live Safe Digital 2020において、その受賞者4組を発表している。応募は、建設業界やテクノロジー業界など幅広い業界から寄せられ、審査は建設局の組織改革委員会(in-house Innovation Committee)や民間企業から選ばれた専門家らが、応募内容の実行可能性、インパクト、革新性を基準に行った。本稿では受賞者の中から2組を紹介する。

Radiator Labs

 Radiator Labs社が提案したCozyは、建物の中央ボイラー制御とネットワークで結ばれたラジエーター(※4)のカバーで、各部屋の蒸気の濃度を操作することで温熱を最大限効果的に供給することができ、温めすぎや浪費を防ぐことが可能になる。Cozyはどのラジエーターにも簡単に設置することが可能であり、またビルの配管系統を邪魔する心配がない。リアルタイムで蒸気の供給システムをモニター分析することが可能になっている。これは、快適な室温を保ちながら、コストを防ぎ、結果的にビルの温室効果ガス排出量を減らすことにつながる。ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)の調査によると、Cozyのシステムを用いることで、蒸気をエネルギーとして活用しているビル全体で燃料(※5)の消費量を平均25%減少させることが判明している。



WexEnergy

 WexEnergy社が提案したWindowSkinsは、窓に張り付けるタイプの透明なパネルで、既存の窓に取り付けることで一重窓を簡単に二重窓にすることができ、既存の窓ガラスとパネルの間の空気を捉えることで断熱効果をもたらす。各ビルの窓の形に沿って特別に作られたパネルは、ものの数分で取り付けることができ、特別な道具やスキルを必要としない。訓練を受けたビル管理者が自力で行うことができ、取り付け後も窓の開け閉めは以前と同様に行うことができる。
 また大規模ビルの窓を交換する場合、費用回収に通常75年以上を要するとされるが、このWindowSkinsはおよそ3年で可能とされている。耐用年数も20年から50年と推定されており、経済的側面も配慮されている。ビルにおけるエネルギー損失の最大の要因は窓とされているが、WindowSkinsの導入することでビル内のエネルギー効率をアップさせ、温室効果ガス排出量を削減につなげることができる。



 コロナウイルスの世界的な感染拡大により、経済活動が後退したため、世界のCO2排出量がここ最近では類を見ないほど減少し、大気汚染レベルが一時劇的に改善したとの報道がなされた。パンデミックに対応するため、主要国でロックダウンを行ったことが主な原因とみられている。ただ、あくまでも一時的な現象であり、今後経済が回復すれば、排出量は増えることが予想されている。また、コロナ禍で排出量が減ったといっても、2015年にパリ協定で定めた排出量削減値に到達するためには、更に減少させることが必要であり、長期的な視点にたった継続的な取組みが求められている(※6) 。

※1 該当する期間の温室効果ガス総排出量から総吸収量を差し引いた正味の値がゼロになること。
※3 1970年にアメリカで開始された地球環境について考える記念日(4月22日)。
※4 ボイラーなどで加熱した温水や蒸気を利用して部屋を暖める暖房器具のこと。マンハッタン区内では100年以上前から蒸気を用いた暖房システムが確立されており、市内の多くのビルで採用されている。
※5 地下にあるボイラーの熱を一定に保つための燃料のこと。

(猪丸所長補佐 広島市派遣)