コンテンツへスキップ

ラピッド・リペアズ事業の成果

ニューヨーク市の革新的被災者対策

「スーパーストーム・サンディ」と呼ばれるハリケーンは昨年10月下旬に東海岸を襲った。11月上旬の時点で、ブルームバーグ市長の発表によると2万人から4万人のニューヨーク市民が避難生活を余儀なくされるという予測もあった。ニューヨーク州などによると、結局、およそ305,000棟の市内の住宅が浸水し、多くの場合、一階あるいは地下に配置される暖房設備や温水器と電気系統などが塩水によって腐食し、使用不能になった。ニューヨークタイムスと統計学者のアンドルーべべリッジュ博士の計算によると、そのうちの42,000棟以上の住宅が一階で最低一メーター浸水した。

住居が住めない状態になった市民のためさまざまな対策が早いうちから考慮された。2005年のハリケーン・カトリーナによって家を失った人に、仮住まいとしてキャンピングカーを提供した際にはコストが高いことや材料が有害ガスを発生することなどが指摘され、FEMAがかなりの批判を浴びた教訓に加え、どうしてもニューオーリンズと違ってニューヨークは敷地が狭くキャンピングカーを置くところがない、ホテルやアパートが高いうえに借りられる物件が足りない、等の問題があり、ニューヨークの特有の条件に合っている解決策を探り出した。

それがラピッド・リペアズ(Rapid Repairs)という事業である。ブルームバーグ市長が11月9日に発表して直ちに実施されたニューヨーク市とFEMAの連携事業で、ニューヨーク市市長室によると3月下旬現在では市全体で約11,800棟の修理が終わり、20,000以上の家族が助けられ、3月31日でプログラムが終了したそうである。ラピッド・リペアズは市が業者を雇ってその職員が住宅の暖房設備と温水器、また電気系統の浸水した部分を取り替え、場合によって最小限の必要な建物自体の修理も行うプログラムである。すべては持ち主にとって無料である。市とFEMAが全費用を負担する。 一軒、平均一万ドル前後の費用が掛かると予測されたが、最終的のプログラムコストがまだ発表されていない。

ラピッド・リペアズは「Shelter-in-place」(室内退避)を可能にする対策として考えられているが、ほとんどの場合は、結局、実際にその避難生活をある程度まで短くするにとどまる。その修理が終わるまで、場合によって住居者が家の二階に住むこともあるが、アパートを借りたり、親戚や友達と一緒に暮らしたりするケースがほとんどのようである。なお、ラピッド・リペアズが終わってからも、建物の修復工事やカビ除去が必要なので、持ち主にとって問題がすべて解決されるわけではないが、自費で修理ができない人にとって、少なくとも、最小限住むところが確保できる形になることを目指してプログラムは実施された。利用した人の話を実際に聞いてみると評判が概ね良いと言える。残りの問題(腐った壁や床などの解体・持ち出し、またはカビ除去等)は業者を雇ったりボランティア団体に頼んだりして対応してもらうことになる。

ラピッド・リペアズの条件としては:

  • ニューヨーク市の5区の中に住み,一戸建て・二戸建て住宅の場合なら(被害者証明の)FEMA番号が必要。もし、それ以上の戸数があればFEMA番号は不要。
  • ニューヨーク市の建物局の審査を受け、建物に構造的に問題がないと判断し、それを示す黄色または緑色の張り札が必要。
  • 水が地下などにたまっていない。

プロセスとしては:

  • ニューヨーク市のウェブサイト、311の電話、あるいは「NYC Restoration Center」というオフィスを通して申し込む。
  • ラピッド・リペアズの代表が下見をし、作業指示書を書く。
  • 持ち主がOKを出せば、作業員が部品などを配達し、インストールする。(ただ、利用者の話によると、部品はすぐ配達されても、場合によってその取り付けが行われるまでは何週間も掛かるようである。)
  • ラピッド・リペアズの修理が終わってから、持ち主は他の修復工事を完成させることができる。

このように大きな事業であったことから、多少の問題・不満が出た。ピーク時点で、一日、11の業者に雇われていた4,000人以上の職員が約200棟の建物の修理を完成していた。このうち、いくつかのケースで新しい設備が正常に作動しないことや、電気工事などに手抜き工事があるなどのクレームがあった。これに対し、ブルームバーグ市長が2月中旬に「After Care」(アフターケア)事業を発表し、3月からスタート。ラピッド・リペアズが終了してからもしばらく続く見込みである。

ニューヨーク市以外にも、ニューヨーク州のナソー郡とサフォック郡とニュージャージー州の二つの町で類似する「STEP」(Sheltering and Temporary Essential Power)という事業が実施されている。今後は、ハリケーンなどの大規模災害の際に、適切と判断された場合、こうした対策も選択肢に含まれることになるだろう。

Matthew Gillam

参考に、ニューヨークタイムス新聞の被害調査に基づく地図をご覧ください。

暖房設備が取り替えられてから、カビ除去のために床まで解体された家の中。