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ニューヨーク市の住宅再生事業「ビルド・イット・バック」の進捗情報

2013年7月にブログで紹介したニューヨーク市の住宅再生事業「ビルド・イット・バック」(Build It Back)は、事業開始から一年近く経過し、被災者とのミーティングが3,000件以上行われた。しかし、修理工事の着工が始まったのは2014年3月末になってからであり、着工も僅かな件数にとどまっている。New York Times紙によると、連邦政府から支出を預託されたインフラ整備・瓦礫除去等のための3億6千万ドル(約367億円)の助成金については、市は支払いをほとんど終えているものの、住宅再生・家賃補助のための6億4千8百万ドル(約660億円)の助成金については、支払額は1千万ドルに達していないとの報道がされている。復興事業を実施するペースが遅いため、被災者の間では不満の声が上がっている。

ビル・デブラシオ市長は、ハリケーン・サンディの被害が大きかったロッカウェイ地区(The Rockaways)で3月29日に記者会見を開き、復興事業の責任者3名を任命するとともに、ビルド・イット・バック事業の運営方針の変更を発表した。

復興事業の最高顧問として、MTAインフラ整備公社(Capital Construction Company)前副社長のビル・ゴルドスティーン(Bill Goldstein)氏、住宅復興室(Housing Recovery Office)の室長には、伝統的に男性の就業が多い職種(建設関係等)への女性の就業を支援する非営利団体「Nontraditional Employment for Women」の前理事長エイミー・ピータソン(Amy Peterson)氏が任命された。また、新設の復興促進室(Office of Recovery and Resiliency)の室長には長期計画・維持可能性促進室(Office of Long Term Planning & Sustainability)室長代理のダニエル・ザリリ(Daniel Zarrilli)氏が任命された。

復興事業の運営方針については、1億ドル(約103億円)の助成金を再配分することを発表した。この1億ドルは、連邦政府からの助成金と別の復興事業に配分決定済みの資金が元手となっており、被災者が速やかに住宅の再建ができるよう、ブルームバーグ前市長の際に決定されていた三段階の交付優先順位を撤廃し、優先順位にかかわらず支給できるように見直した。また、書面手続きの合理化を徹底すると同時に、住宅復興室のスタッフを35パーセント増員して105名にすることも併せて発表された。

ビルド・イット・バック事業の事業運営において、被災者が申請書類の手続きを行う際に、ボランティアやNPO団体が支援を行なっている。ボランティア団体らによると、被災者にとって申請書類は複雑で書類のとりまとめに時間を要するため、外部による支援が必要な状態であるという。ブルームバーグ政権では、被災者の申請手続きが円滑に進んでいないことは把握されていなかった。

デブラシオ市長は、就任後、チャータースクール(特別認可校)への公共スペース貸与問題やセントラルパークの馬車の存廃問題に対応していた。そのため、サンディの復興関係事業への取組みを本格的に開始するまで、約4ヶ月を要することになった。被災者の間では、復興事業の再編に希望を持つ一方、デブラシオ市長がブルームバーグ前市長より住宅再建に力を入れるかどうか、「再建工事の着工状況を見守るしかない」といった懐疑的な見方もされている。しかし、デブラシオ市長の方針を肯定的に捉え、その努力を高く評価している地元の市民団体の代表もいることから、今後の復興事業の進展が注目されるところである。

(写真)インフラ整備等の助成金によって修復工事が行われているロッカウェイ地区のボードウォーク。ビルド・イット・バック事業の助成金交付が遅れていたため、ボードウォーク裏の住宅のほとんどは、住民の私費やボランティアにより、政府の支援を待たずに修理や再建が行われている。

2014年4月

ニューヨーク事務所 上席調査員 Matthew Gillam