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Chief Digital Officer, NYC (ニューヨーク市の女性チーフ・デジタル・オフィサー)

2012年3月28日

ニューヨーク市長室はかつて、市のホームページに次のような求人情報を掲載した。「市民により良いサービスを提供するため、ソーシャルメディア、デジタルコミュニケーション、ウエブ2.0(次世代のウエブ)その他のツールに対する先進的な政策立案に貢献する人材を求める。年収は7,5000ドルから125,000ドル」

2011年に年間報酬額115,000ドルでこの職に就任したのが、当時27歳、市民ジャーナリズムサイト「グランド・リポート」の創設者であり、コロンビアビジネススクール「ソーシャルメディアと起業家精神コース」の非常勤教授であったレイチェル・スターンだ。NY生まれのスターンはニューヨーク大学で歴史学を学んだのち、ライムワイヤー社(音楽ファイル交換サイト)の事業開発担当者やソーシャルメディア及びマーケティングのコンサルティング業務などの経験を経て、2006年に極めてローカルなニュースプラットホーム「グランドリポート」を設立した。国連安全保障理事会のインターンとして働いていたことはあるものの、チーフ・デジタル・オフィサーのポストにつく前に行政の経験は全くなく、その若さと経験の少なさを懸念する声も上がった。

しかし就任時に市長室が発表したコメントは次のように極めて自信に満ちたものであった「レイチェルはソーシャルメディアの世界に影響を与え続け、長年市民ジャーナリズムの起業家として活躍してきた。彼女はデジタルメディアの強力な支持者であり、同時に今後数年間にわたり市のソーシャルメディア活用に手腕を発揮するだろう」

スターンの仕事の最も目に見える部分は、FacebookやTwitter等のソーシャルネットワークにより市民と市政府をつなぐ機能を再構築することだが、それには、起業家と市当局との間のコミュニケーション円滑化も含まれる。ニューヨークローカルの起業家やベンチャー投資家は、ブルームバーグ政権に常に満足してきたわけではないからだ。現場のリーダーは常に技術コミュニティへの支援-デジタル世代とのコミュニケーション強化や起業家向けの賃料の低いオフィスの提供、さらには学校教育における技術起業精神へのフォーカス-を求めてきた。

スターンの就任時のコメントは次の通りである。「自分の役割は、市のホームページに単に新しいTwitterアカウントを加えるだけではない。重要なことは、市政府がテクノロジーを利用してより良い市民サービスを行えるよう貢献すること。行政サービスをより効率的にし、オンラインアクセスを改善することで、納税者の税金を節約すること。より具体的には、まず市民と市政府機関から、市のデジタル資産に対するアイデア、要求、不満を聞くリスニングキャンペーンから開始する」

そうして発表された「ロードマップ・フォー・ザ・デジタル・シティ(Road Map for the Digital City)」は、市のデジタル資産、ソーシャルメディア資産の分析を行い、広範囲に渡るデータ保全、ワイヤレスインターネットの接続性改善、市が提供するモバイルアプリケーションの拡大など、政策・戦略両面において次のステップの概要を描くものとなり、多くの市民に好意的に受け入れられた。

自分のポストの課題について、彼女はこう語っている。「価値のある政策には全て課題がつきものだ。自分の仕事も例外ではない。行政においては、納税者の負担を求めることがないように、コストを抑え、創造的な解決策を見出さなければならない。その点において、自分がグランドリポートの運営を通じて得た経験とネットワークは大いに役立つ。加えて、ニューヨークのような途方もない大都市では、政府機関と協力し、私の仕事が彼らの業務を改善する手助けをしているということを明確にすることが極めて重要だ。70以上の機関があることを考えれば、これは大きな課題であり、欠くことができないステップだ。しかし何にもまして、市長と市が、技術革新に対する支援を最優先とすること、また、ニューヨーク市民へのサービスを最優先することを明確にしたその時に、その役割を果すことができることにワクワクしている。世界で最も素晴らしい都市でデジタル政府を発展させていくほどエキサイティングな挑戦なんて他には思い浮かばない」

異色の経歴のスターンであり、ローカルメディアに主役として取り上げられることも多いが、就任二年目となり、今後は市民サービス向上にどのような成果を挙げていくのかが問われていくことになるだろう。

ニューヨーク事務所次長 園原 隆(東京都派遣)