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ニューヨークの非常事態宣言に関して(3月24日現在)

連邦議会におけるコロナウィルスに関する第三次経済対策の交渉は難航していますが、共和党と民主党は最終合意に近づいていると言われています。発表された際の一兆ドルが膨張し、約二兆ドルになりそうで、その使途が争点となっています。大まかに言って、共和党の提案は企業を優先し、民主党は国民生活を優先すると言われていますが、詳細がまだわからないので、経済援助の主眼が企業向けになるか、あるいは労働者向けになるかはまだ不明瞭です。

ニューヨーク州では、クオモ知事が週末を含めて毎日記者会見を行い、最新の感染者数等の状況や州としての対応、住民に向けた呼びかけ等を行っています。例えば、3月22日日曜日の記者会見の中で、ニューヨーク市民がまだ過度に密集し、特に路上や公園の中で、他人との距離をとること(social distancing)を十分に行っていないと指摘しました(前日、視察しに来たようです)。それで、市長の名前を一度も言わずに(市議会議長の名前は何度も言及したにもかかわらず)24時間以内に対策を州に示すよう命じました。また、州民の社会的責任に関して述べ、若者がsocial distancing等を守るように呼びかけました(政策の実施権限は市町村レベルの警察にあり、知事の権限は限られています)。

州の具体的な行政命令としては、19日木曜日に床屋・タトゥー・美容室など、顧客と直接接触するサービスの臨時閉鎖を命じるとともに、それ以外の州民の生活に「必須でない」(non-essential)企業や非営利団体の出勤を前日の50パーセントから引き上げ、75パーセント削減するよう命じました。「必須」(essential)というのは、例えば、食料品・飲料品・医療関係(薬局やクリニック等)・電子製品・日曜大工関係の店舗、また、政府関連のオフィス等が含まれています。当然、病院・公共交通・警察・消防等も含まれます。それ以外の店舗(衣服・靴・雑貨等)は「必須でない」に分類されます。

20日には、裁判所の制限や運転免許証や車両登録等の有効期限の延期、また立ち退きや差し押さえを90日間行わないよう命じました。加えて、前日に出した「必須でない」事業の出勤の削減を75パーセントからさらに引き上げ、100パーセントにしました。

「必須でない」業種の店員の多くが解雇となり、ホテルや観光関係に加わって失業保険の手当てを申請しています。ニューヨーク州労働局のウェブサイトはアクセスが集中し先週から何度もダウンしたことから経済的ダメージの大きさが窺えますが、正確な統計が出るまでには時間がかかりそうです。その代わり、「必須」とされているビジネスは人手不足で職員を募集しています。パートタイムや臨時のポジションでしょうが、米国全体で世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートが15万人、アマゾンが10万人、大手薬局チェーンのCVSやディスカウントショップのDollar Generalがそれぞれ5万人の職員を雇うと発表しました。こういう明るいところがあるとはいえ、最終的なダメージは確かに相当大きいと考えられます。

いつまで「ロックダウン」をしないといけないのがネックです。トランプ大統領は近日ビジネスやsocial distancingの規制を緩和すべきであると主張していますが、中国や香港などを見ると、あまり早く緩和するとウィルスが再発生することが明らかです。単純に「緩和する」より、クオモ知事は22日の記者会見の中でイエール大学医学部予防研究センターのDavid Katz所長の提案を取り上げ(New York Timesなどを参照)、「リスク層別化」(Risk Stratification)という概念に基づいて、既に感染して免疫のある人やリスクが少ない健康な若者などを先に仕事に戻らせれば少しでも経済復興が始められると主張しています。これは現在ひどく不足している検査制度の改善・拡大、social distancingの維持、出勤する職員は安全であるとの証明システムなどがないと実現は難しいかもしれませんが、こういう戦略を取り入れながら工夫しないとダメージが悪化する一方です。

Matthew Gillam
上級調査員