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ニューヨーク市の見えない警察

「New York City’s Finest」(ニューヨークの世界一の警察)と呼ばれるニューヨーク市警察(NYPD)の中にはあまり知られてはいないが、同じくらい素晴らしい組織があるのをご存知だろうか。

ニューヨーク市警察予備隊(The New York City Auxiliary Police Department)と呼ばれる完全ボランティアの人員約4,500人によって編成されている部隊である。隊員達は、地下鉄のプラットフォームにある不審物件の調査からニューヨークシティマラソンのような大きなイベントの雑踏警備にいたるまで数々のパトロール業務に携わっている。

隊員たちは、通常のNYPD警察官の着る制服とほぼ同じ外観をした制服を着用し、けん銃は携帯しないが警棒と警察無線を装備して勤務についている。

予備隊員には逮捕権は与えられていないものの犯罪が発生した場合は即座に警察に通報し、NYPD警察官の到着を待ち、その業務を補助するのである。

この警察予備隊は、1951年、核戦争の恐怖に脅かされていた米ソ冷戦時代に連邦政府の要請により編成された。万が一の場合にパニックに陥った市民を落ち着かせ、市民を核シェルターに避難させる誘導役としての目的でこの予備隊はボランティアの人員を中心に組織された。

1967年には警察予備隊は正式にニューヨーク市警察の指揮下に入ったが、ニューヨーク市の犯罪が多発したという時代背景により、避難誘導という任務から、犯罪を減らすという任務にその目的が移行していった。

今日、予備隊の隊員たちは、合計50時間を超えるトレーニングカリキュラムを終了することが求められ、毎月10時間以上の勤務が義務付けられている。予備隊専用のパトカー、自転車、徒歩等で街をパトロールし、今では「見せる警戒役」としての役割も担っている。

ある警察分署管内では、予備隊は地域コミュニティーと警察との橋渡し役として重要な役目を背負っている。例えばチャイナタウンを管轄する分署内では、150名以上の予備隊員が勤務についている。これはチャイナタウンの住人たちの多くが警察に犯罪を通報するということに恐怖心をいだいており、その役目を予備隊員たちが果たしているのである。この結果、通報数の多さから、ニューヨーク市に居住し、働いているアジア系アメリカ人に対する犯罪件数が逆に多くなるという現象まで起きている。

予備隊員たちは、通常2人一組でパトロールを行い、昼夜を分かたず市民の安全を守るために働いているのである。

ニューヨーク市警察自体も大きな市民イベントがある場合には、予備隊の力に頼っている部分もある。2004年にシェイ・スタジアム(現シティーフィールドスタジアム)で行われた大規模テロ攻撃対策訓練の際には約1,000人の予備隊員がニューヨーク市民役となり訓練が行われた。

また、2005年のロンドン地下鉄テロ事件の2週間後には交通警察予備隊が新たに組織され、警察官とともにニューヨークの地下鉄専門の警備もしているのである。

現在の警察予備隊は、もう以前言われていたような「見えない警察」ではなく、「New York City’s Finest」を補強する部隊として、ニューヨーク市の犯罪を減らすため、そして、市民の生活の向上を図るために無くてはならない部隊としてキラリと光る存在感をニューヨーク市の中で放っているのである。

2012年2月14日

執筆者:Seth Benjamin, Senior Researcher