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ケベック州の人口問題

カナダの東部の州では全体的に少子高齢化に悩まされていますが、ケベック州は言語の規制やフランス系の文化の保存政策も重なり、他の州より対応策がさらに複雑で困難です。

ケベック州は伝統的に大きな家族を理想とするカトリック教のフランス系の文化を持ち、出生率が1956年に4.0パーセントでした。しかし、それから社会の変化によって急激に落ちこみ、1970年にはおよそ2.1パーセント、1987年には1.4パーセントまで下がりました。

このため、1988年に州政府が「新生児手当て」という出産促進制度を実施し、子供1人につき2人目までは500ドルずつ、3人目からは3,000ドルずつの手当が支給されました。1992年には、1人目に500ドル、2人目は1,000ドル、3人以上は8,000ドルずつに引き上げられました。しかし、1990年には、出生率が1.6パーセントを超えたものの、1992年からは少しずつ下がり気味となり、1997年に費用対効果が不十分と判断され、この制度が廃止となりました。

その後、出生率がさらに下がり、2000年に1.45になってから多少回復してもほとんど横ばいのままでした。しかし、2006年に低コストのデイケア(最初のころ、一日5ドル)と産休制度を実施し、2008・2009年に出生率が1.73まで上がりました。ただ、それ以後、2015年にまた1.60まで下がりました。

しかし、出生率と政策の因果関係の分析を難しくする要因があります。1990年ごろから2015年までの間にケベック州の女性の平均出産年齢が高くなってきました。15歳から29歳までの層で率が徐々に下がる傾向と同時に、30歳以上の率が上がってきました。この変動が全体の出生率の増減に影響しているため、政策効果が多少不明瞭になります。

ちなみに、シェルブルック大学の2012年の調査によると、低コストのデイケア事業については、少なくとも、ケベック州の女性の労働参加率の増加を促進する効果はありました。1996年の時点ではカナダの平均レートより低かったケベック州の女性の労働参加率は、2011年までに全国平均より高くなりました。その意味では、同事業は明らかに人手不足問題対策には貢献しています。

ピーク時でも出生率の促進政策の効果が期待されていたほど大きくなかった上に、近年さらに小さくなったので、少子高齢化対策の見直しの必要性が認められてきました。移民政策を改善するという方針が長年検討されましたが反対が根強く、人手不足をどうやって解消すればいいかについての議論に決着がつくのは難しそうです。

2015年11月に発表されたレポートによると、現在の年間5万人程度のレベルで移民を受け続けると2031年までに生産年齢人口が著しく減少するが、もし、6万人に上げるとそれを食い止めて人口の増加が期待できると想定されているそうです。このため、2016年5月にケベック州の「国会」(州議会)で自由党政権が移民制度の改善と共に移民の年数を5万人から6万人に増やす方針を発表しましたが、反対の声が圧倒的で同方針が間もなく取り消しとなりました。

同州は、連邦政府との間にできた同意書によって、移民の同州への受け入れに関する政策を独自に決定・実行できる唯一の州です。ケベック州の公用語はフランス語で、フランス語のできる移民の候補は有利な立場にあり、移民が認められやすくなります。データをみると、2011・2012年現在で、およそ63パーセントの新着移民と95パーセントの州民はフランス語ができます。

にもかかわらず、伝統的なフランス系ケベック人(ケベックァ・Quebecois)が英語圏・イギリス系のカナダの中で自分の言語と文化を守ろうとしており、移民はフランス語ができても必ず歓迎されるわけでもありません。つまり、非ケベックァの州民の割合が多くなればなるほど伝統文化を守ることが難しくなると、警戒する人たちがいます。

人数の増加を反対する人の一つの懸案事項は移民の受け入れ体制です。ケベック州の移民の失業率は、2015年のデータによると入国して5年以内だと、16.4パーセントですが、10年以上滞在する者では7.6パーセントまで下がります。しかし、10年以上住んでも、失業率は全国に比べるとおよそ2パーセント、州全体と比べてもおよそ1パーセント高く、就職は困難な状態が続きます。原因としては、雇い主の外国人に対する偏見以外に、母国で得た資格が認められていないことや、フランス語あるいは英語しかできない場合には高いハードルとなることなどがあるそうです。

ケベック州に移民しても時間が経つと別の州に行く人も多いです。2013年現在で、2002年から2011年までの間に来た人を部類別に見ると、「ビジネスクラス(経営管理)」の移民のたった33.3パーセントしか州に残っておらず、「技能労働者」の75.4パーセント、「住み込みの介護士」の89.9パーセントに比べるとビジネスクラスに関して何らかの問題があると考えられます。

全面的な移民制度の改善策として、母国で得た資格をカナダでも認めてもらうために必要な評価・レビューのプロセスの合理化、待ち時間を半年に縮小(現在は1年から4年までかかる)、ケベック州の大学や大学院で勉強する留学生の移民手続きの合理化の他、移民候補が提供する就職の目的や興味を持つ分野に関する情報をベースに、政府が州の雇用ニーズによりよくマッチングする候補を選べるようにするなど様々な新しい方針があります。このような改善策には、移民をより早く入国させ、より適切な仕事がすぐ見つかるようにすることで、もっと効果的に外国の方にアピールし、移住後ケベック州に定住するようにする狙いがあります。

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Kathleen Weil

Ministre de l’Immigration, de la Diversite et de l’Inclusion
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移民大臣は2016年に州民と数回の公開協議を行ってから具体的な3ヵ年政策を定め、同年10月27日にこれを発表しました。2017年に51,000人の移民を受け入れ、フランス語を習うためのクラスなどの予算を3,100万ドル(約27.1億円)増の総額1.68億ドル(約147億円)とする等を予定しているそうです。また、受け入れる移民の数を来年も同じ51,000人に維持し、2019年には52,500人に増やす予定です。さらに、2019年までに、「ビジネスクラス」の割合を現在の移民全体のおよそ59パーセントから63パーセントへ増やし、「技能労働者」の移民の最低85パーセントがフランス語でき、最低70パーセントがケベックで要求されている技術を持つとの目標も設定するとも発表しました。加えて、モントリオール市とその周辺だけではなく、移民が地方にも広がる政策に努めると約束しました。

ケベックァの反対が根強く続きそうで、移民の受け入れを5万人から6万人まで増加することが何らかの形で政治的に可能になるかどうかは、おそらく、受け入れ体制の強化を効率的に成し遂げる必要があり、この3年間の結果次第でしょう。

Matthew Gillam
2017年1月