07 1月 2021

ニューヨークの地下鉄ライブマップについて

ニューヨークの地下鉄では待っても電車がなかなか来ない、工事中でいつも利用している路線が終日運休、駅のエレベーターが故障中といった光景によく遭遇する。 これまで週末の工事情報や他路線を使った運行情報等は、ニューヨークにおいて地下鉄を運営しているニューヨーク都市圏交通公社(Metropolitan Transportation Authority、以下MTAという。)のホームーページや駅構内のポスターで情報提供されてきたため、駅に到着して運行停止の事実に気付いたり、ホームで長時間待たされたりといったことに地下鉄利用者は長年悩まされてきた。

1904年に開業したニューヨークの地下鉄は、現在26路線、472の駅を有し、走行距離365マイル(約587キロ)、2019年に年間乗客数が約17億人にも上る世界有数の地下鉄網を形成している。

公共交通機関を利用する上でマップは欠かせないものであるが、これまでニューヨークでは、1979年に発行されたマップが幾度かの改定を経て利用されてきた。1970年代、財政破綻寸前に陥り、治安が悪化していたニューヨーク市では、地下鉄乗客数が1918年からの統計以来最低を記録していた。そこでMTAはマップが使いにくいとの当時の乗客の声を受けて、イタリアのデザイナーに依頼して地下鉄の地図の改定に乗り出した。それまで地図上になかった道路を付け加え、公園の形を変形して地図上において路線との位置関係が把握しやすいよう工夫した。また路線自体も、それまでの直線からカーブに変更した。編集に当たっては日本人デザイナーが参加し、全ての路線に乗車して書き取った線形をマップに反映させることで、マップがより現実に近いものになった。

それからおよそ40年が経過した2020年10月21日、MTAは地下鉄マップをさらに進化させたライブマップ(https://map.mta.info/)を発表した。

このマップでは、電車の位置が黒の長方形でリアルタイムに表示され、路線のどの位置にいるか視覚的に認識できるようになっている。また、工事等で不通になっている路線は薄く表示されるほか、車いす利用者が快適に利用できるか、エレベーターやエスカレーターが利用不可になっていないかなど、様々な情報がマップに集約されている。さらに現在の状況だけではなく、「Tonight」や「Weekend」に切り替えれば、夜間(午後9時以降)や週末の路線状況も事前に把握できるようになっており、利用者が列車の運行状況をあらかじめ把握して予定を立てることができるようになる。新たなマップにより、これまで利用者が抱えていた不満が解消されるかもしれない。

このマップは、MTA、ニューヨーク市、交通改革パートナーシップ※1及びブルックリンを拠点とするデザイン技術会社Work & Co. が、18か月をかけて共同で作成した。今回発表されたのは正式版がリリースされる前のベータ版であり、利用者の声を受けて今後システムの見直しが予定されている。

昨年から猛威を振るっているコロナウイルスは、ニューヨークの地下鉄経営にも大きな影響をもたらしている。元々地下鉄利用者数が2015年をピークに以降減少傾向にあったところ※2、コロナウイルスが追い打ちをかけ、通常時のおよそ30%まで減少している※3。MTAが抱える負債額は2024年までに160億ドルに及ぶとみられており、経営は危機的状況にある。この状況を打開するため、運賃の値上げが本格的に検討されている。また、連邦政府から120億ドルの支援を得る必要があり※4、もし支援が受けられない場合は地下鉄やバスのサービスを40%カットする必要に迫られる※5。運行サービスも乗客数に応じて柔軟に変化させ、支出の抑制を図っていくことが求められている。当面は、大幅に落ち込んでしまった乗客数をどのように回復させるかという点が大きな課題ではあるが、少なくとも2024年までにパンデミック発生前の90%まで乗客数が回復することはないとみられており、見通しは明るくない※4。

「交通機関の近代化はニューヨーク市の回復に欠くことのできないものであり、今回の新たなマップはこの厳しい時代において利用者に多くの情報をもたらしてくれる。」と交通改革パートナーシップのレイチェル・ハオット事務局長はこのマップに期待を述べている。

公共交通サービスの低下は、そこで生活する住民にとって日々の暮らしに直結する重大なテーマであり、ニューヨークがどのようにこの難局を乗り越えていくのか今後も注目していきたい。

※1クオモニューヨーク州知事の呼びかけにより、ニューヨーク市とMTAが設置したもので、民間の手法を取り入れて、公共交通の近代化を目的とした組織

※2「2019年の地下鉄及びバスの乗客数について」MTA, ウェブサイト, 2020年4月14日更新 (https://new.mta.info/agency/new-york-city-transit/subway-bus-ridership-2019

※3「日々の乗客数について」MTA, ウェブサイト (https://new.mta.info/coronavirus/ridership

※4 MTAの2021年予算案及び2021-2024の4か年の財務計画の中で明らかにされたもの。「アメリカ合衆国上院でコロナウイルス救済法を検討するに当たり、MTAの負債額が2024年までに160億ドルに上ることの詳細について」, MTA, プレスリリース, 2020年7月22日, (https://www.mta.info/press-release/mta-headquarters/us-senate-considers-coronavirus-relief-bill-mta-details-16-billion

※5『New York Times』2020年11月18日付 (https://www.nytimes.com/2020/11/18/nyregion/nyc-mta-budget-cuts.html

(猪丸所長補佐 広島市派遣)