14 8月 2012

また無差別銃乱射事件が繰り返されるアメリカ ~テキサス州ヒューストン市が作成した銃撃事件の対処法が全米中の話題に~

ヒューストン市作成動画へのリンク

2012年7月20日に発生したコロラド州アウロラでの映画館無差別銃撃事件に全米が震えた。死者12名、負傷者50名以上。アメリカの歴史の中でも最も被害の大きい銃撃事件の一つとなった。

さらにその3週間も満たない8月5日の日曜日、ウイスコンシン州ミルウォーキーにおいて、シーク教の教会に白人男性が押し入り、6人を射殺、3名が負傷という事件が発生した。

昨年の1月8日にアリゾナ州ツーソンで起こった銃乱射事件では当時下院議員だったガブリエル・ギフォーズ議員の他多数が撃たれ6名の死者が出たことも記憶に新しい。

このような乱射事件が繰り返される中、テキサス州ヒューストン市が市民向けに無差別銃乱射事件に遭遇した場合の対処方法について解説した約6分間の動画を7月23日に市のホームページに載せた「RUN. HIDE. FIGHT. Surviving an Active Shooter Event」(英語版、スペイン語版、中国語版、ベトナム語版)が全米中の話題となっている。

コロラド州アウロラの事件から3日後、そして動画公開から2週間後にウイスコンシン州ミルウォーキーでの事件が発生と動画の発表されたタイミングもさることながら、そのリアリズムに徹した映像、適切な対処法が多くの反響を呼び、8月14日時点でYouTube上の再生回数は70万回を超えている。一地方自治体が作成した公共サービス用映像として異例の多さである。

この動画では通常のオフィス内で一般の人が無差別銃乱射事件に遭遇した場合の対処方法を3つのキーワードで教えている。

その3つのキーワードとは「逃げる」「隠れる」「戦う」である。

何事においても最優先にしなければいけないのは「逃げる」ことであり、他人が残っていたほうが良いと主張したとしても「逃げる」べきだとしている。

次は「隠れる」である。これは逃げる手段が無くなった場合に犯人に見つからないように「隠れる」ということを教えている。

最後は「戦う」である。逃げることもできず、隠れる場所も無い。そして犯人がこちらに向かってくるという場合を限定した最終手段である。

銃を持った相手に丸腰で戦うという発想については、我々日本人に考えつくのは難しいが、犯人が女性、子供を問わず無差別に発砲する異常者であるならば、もしこちらが何もしなければ間違い無くこちらも殺されてしまう。

自分の命を守るために一か八か相手と戦うべきだと訴えるのは最終手段としてやむを得ないことだろう。こういった動画を一地方自治体が作るということは驚くべきことであるが、現在のアメリカにおいて必要に迫られていることも事実なのである。

それだけでこの動画は終了しない。警察官が到着した後の対処方法にも触れている。こういった現場に最初に急行する警察官はいわゆるSWATなどと呼ばれる銃器対策専門の警察特殊部隊である。

この動画では、このような警察特殊部隊は市民の避難誘導をしたり、負傷者を救助するために来るのではないということが強調されている。警察特殊部隊の任務は、犯人の無力化である。

つまり、一般市民はそういった警察特殊部隊に対して「叫んだり、指をさしたり、助けを求めて駆け寄ったりしてはならない」としている。もしそういったことをすると最悪の場合、警察官に撃たれてしまう可能性があるのである。

これは私も非常に驚いた点である。日本人的感覚であれば、負傷者の救助等を最優先にしなければならないと考える。しかしながら犯人がまだ銃を持ってうろついている場合には、犯人を制圧しなければどんどん負傷者は増えてしまう。何よりも犯人の無力化を最優先にしなければならない。考えてみれば当たり前のことなのである。

この動画は、テキサス州ヒューストン市が作成したものであるが、それ以外の州、新聞、インターネット等で記事になっているだけでもフロリダ州、オハイオ州、ワシントンDCで取り上げられるなど全米中で話題となっている。

さらにそのようなこの動画を紹介する記事の中で、特に印象に残ったのは「今の子供達は火事の時の避難訓練は行なっているが、これからはこのような無差別銃発砲事件に対する対処訓練も必要だ」という意見もあり、現在のアメリカが抱える問題を浮き彫りにしている。

現在、この動画は英語、スペイン語、中国語、ベトナム語版がヒューストン市のホームページで公開されているが、残念ながら日本語版はない。

当動画を制作したヒューストン市市長室からの了承を得ることができたことから日本語版ではないが、英語版に日本語字幕を付けたものを私が作成し(財)自治体国際化協会ニューヨーク事務所のホームページ上において公開することとした。

日本においてはこのような無差別銃乱射事件が発生する可能性は少ないが、このような対処法については、日本の一般市民、そして警察関係者にとっても万が一を想定した緊急事態の対処法としては、非常に参考になるものであろう。

また、アメリカに住む日本人、そしてアメリカに旅行する日本人旅行客にとっても参考になるものになるだろう。

このような事件に遭遇することは、ほとんどの人にとっては一生にあるかないかのことであるが、不幸にも遭遇してしまった場合にこのことを知っているか知っていないかで自分の命が左右されるとするのであれば、たった6分間の動画である、見ておくだけでも損は無いだろう。


警視庁派遣 所長補佐 今川 勝之