26 3月 2013

デトロイト市の財政危機と州政府の介入

破産法弁護士に託されるデトロイト市の財政再建

3月14日、ミシガン州のRick Snyder州知事は、財政危機が続くデトロイト市の緊急財政管理官(Emergency Financial Manager)にKevin Orr氏を任命すると発表した。Orr氏は54才。1983年にミシガン大学ロースクールを卒業した後フロリダ州にある法律事務所に就職、その後、1991年から連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation)、不良債権処理機関の整理信託公社(Resolution Trust Corporation)、さらに連邦司法省に勤務し、2001年から現職のJones Day法律事務所で勤務している。リーマン・ショック後のクライスラー自動車の再生案件も担当した破産・再生法分野の専門家である。

Orr氏の就任予定は3月25日。公表された契約 によると、年俸は275,000ドル(約2,600万円)である。この報酬は、緊急財政管理官について定める旧法が有効である3月27日まではデトロイト市が、新法が施行される3月28日以降はミシガン州政府が負担することになる。

デトロイト市の財政危機

デトロイトといえば、映画「ロボコップ」の舞台ともなった街であり、高層ビルが並び立つ自動車産業の中心都市、というイメージがある。しかし、アメリカの自動車産業が苦境に立つ中、デトロイト市も長期に渡って衰退を重ねてきた。

同市の人口は、最盛期の1950年には185万人近くを数えたが、2010年国勢調査では約71万4千人と、1910年代(約100年前)の水準まで落ち込んでいる。持家比率は53.8%(ミシガン州73.5%)、持家評価額の中間値は71,100ドル(同137,300ドル)、平均2.75人の一世帯当たり年収の中間値は27,862ドル(同2.53人、48,669ドル)にすぎない 。地域によっては人口流出によって生じた空き家が荒れたまま多数放置され、治安上の懸念から車でも赤信号で停車せずにすむよう走行スピードを調整するような場所もあるという。

ミシガン州政府が任命したデトロイト市財政評価チーム(Detroit Financial Review Team)が2月19日に公表したレポート によれば、同市の一般会計(General Fund)は2005年から毎年継続して収支不足となっており、2012年の累積収支不足は3億2,660万ドル(約310億円)、資金繰りのための長期借入金を除外して考えると、9億3,680万ドル(890億円)となっている。また、長期借入金に加えて年金債務や退職者に約束された健康保険に係る債務などを含めた長期債務は、2012年6月30日(会計年度末)時点で136億ドルから150億ドル(約1兆3~4千億円)に達するという。(年金に係る負債・資産の計算方法により幅がある。)

デトロイト市が公表している2012年6月末の年次財政報告書 によると、市の税収は6億8,790万ドル。補助金、手数料等を含む警察消防、衛生、環境、経済開発等の政府活動に係る年間歳入の総額は15億ドル、その活動に要した歳出は16億ドルとされている。

閉ざされた自主再建の道

ミシガン州には、地方政府が財政危機に陥った場合に、州が緊急財政管理官を任命し、財政再建を図る制度がある。緊急財政管理官は、市長や議会の承認なしに予算を修正でき、部局の統廃合・職員の任免も行えるなどの強力な権限を持つ。現在は、Allen Park、Flint、Benton Harbor、Ecorse、Pontiacの5自治体と、3つの学校区に緊急財政管理官が任命されている。

ミシガン州の財政危機にある地方政府には、もうひとつの選択肢がある。それはConsent Agreementと呼ばれる協定を州政府と締結し、協定で規定された財政再建策を履行するという仕組みである。Consent Agreement方式では、あくまで州との合意の範囲内ではあるが、地方政府の運営は市長と議会に委ねられる。現在はRiver RougeとInksterの2自治体に適用されている。

デトロイト市についても、最初から緊急財政管理官の任命が行われたわけではなかった。従来からデトロイト市はミシガン州財務省に地方財政法、歳入分与法等に基づく収支不足解消計画を提出してきており、直近では2012年4月に、州政府との間で上記のConsent Agreementに準ずる財政安定化協定(Financial Stability Agreement) を締結している。これにより、デトロイト市の財政運営状況を監視・調査し、助言・勧告を行うとともに起債の同意権限等を持つ財政助言委員会(Financial Advisory Board)が設けられたほか、市の財政運営に係る新たな職の創設、3カ年予算の策定、市の財政運営に必要な資金調達、市の改革に係る州の支援、労働協約交渉上の制限などが事細かに定められ、5年以内に収支不足の解消が行われるはずだった。

デトロイト市の発表資料 によると、現市長のDave Bing氏が市長に就任した2009年に13,420人いた職員は、現在9,600人にまで削減され、市の部局のうち3つは外部法人化、給与カットも実施された。所得税等の徴収強化、法人税の税率引き上げ、公共安全(警察・消防)分野の連邦政府補助金の獲得など歳入面での努力も行われた。一方で、住民に不満の多い公共サービスを改善するべく、警察官の再配置(内勤を減らし外勤パトロールを強化、分駐所の開設等)、街路灯の改良、レクリエーションプログラムを運営するための寄付金集めキャンペーンなどが行われ、市の荒廃地区にある放置建築物もこれまで6,700軒近くを取り壊してきたという。

しかしこうした努力の一方で、デトロイト市の対応が迷走している(市長と議会・議会内部の不一致)という印象を与える事件もあった。中でも注目されたのは、2012年夏にデトロイト市の法務担当弁護士が行った、前述の州と締結した財政安定化協定は無効であるという訴訟提起である。デトロイト市の資金繰りのため、協定に基づきミシガン州資金調達機構(Michigan Finance Authority)が債券を発行しようとしていた矢先のできごとであった。協定では、州が市の資金調達に協力する代わりに調達資金の一部を留保し、財政再建に係る一定の目標が達成されたら市が使えるようにする仕組みとなっており、訴訟はこの点を問題視していた。法務担当弁護士の解任には市議会の同意が必要とされており、この訴訟提起の背景には、財政カットに不満を持つ一部議員のバックアップもあったようである。しかし、この債券が発行されなければ市の資金繰りは行き詰まることも明白であった。

上記の訴訟は最終的に裁判所に却下されたが、デトロイト市の遅々として進まない財政再建に業を煮やした州政府は、12月18日、緊急財政管理官任命の前提となる財政状況評価を行うため、デトロイト市財政評価チームを任命した。2月19日に提出された評価チームの報告書 によると、有効な策を講じなければ、デトロイト市は今会計年度末である2013年6月30日には1億ドル以上の現金不足に陥り、所用の支出を賄うことができなくなるとされ、また、更なるConsent Agreementの締結も有効策にはならないと否定された。報告書では、デトロイト市の度重なる予算と実際の収支の乖離、恒常的な予算超過支出、警察官の内勤・外勤配置も把握できない市当局のマネジメント体制の不備、速やかな改革の実施を阻害する市憲章の規定、多数の合議体に委ねられた各部局の分割された指揮権など、単なる収支不足に留まらない数々の行政運営上の問題点が指摘されている。

報告書の提出を受け、Snyder州知事はデトロイト市に緊急財政管理官を任命する方針を明らかにした。破産企業の管財人に相当するとも言われる管理官の任命に対し、市長と議会は反発し、当初は任命の法的有効性などを訴訟で争うことも辞さない構えを見せたが、最終的には管理官の任命を受け入れ、3月14日にKevyn Orr氏の就任が公表されることとなったのである。

緊急財政管理官の権限と地方自治・民主主義

デトロイト市が迷走する一方で、緊急財政管理官について定めるミシガン州法も興味深い経緯をたどった。本稿の執筆時点(2013年3月19日)で施行されているのは、地方政府財政責任法(Local Government Fiscal Responsibility Act)、通称Public Act 72と呼ばれる法律(以下「PA72」という。)である。

(1)PA72
1990年に制定されたPA72に基づく緊急財政管理官は、市議会や市長の承認なしに予算を修正することができる。また、自治体憲章の定めにかかわらず、部局を統合し、あるいはある部局の機能を他部局に移管することもできる。このほか管理官は、他の地方政府からサービス供給を受ける(例えば市の消防を廃止し、他の市にお金を払って消防サービスを委託する)契約の締結、市長及び市議会メンバーの報酬の削減又は廃止、公有財産の売却(憲章に別段の定めがない場合に限る)、職員の解雇など広範な権限を持つ。自らをサポートするスタッフを任命・雇用することもできる。ただし税を課す権限や、職員との労働協約を修正する権限は持たない。

(2)PA4の制定と住民投票
2011年に就任した共和党のSnyder州知事は、地方政府の財政再建を加速するべく、新たに地方政府及び学校区の財政説明責任に関する法律(Local Government and School District Fiscal Accountability Act)、通称Public Act 4と呼ばれる法律(以下「PA4」という。)の制定を主導した。2011年に制定されたPA4では、法律が発動される要件(地方政府の財政危機の可能性を示す要件)がより細かく定義された他、緊急管理官(この法律ではEmergency Managerいう職名となっている)の地位・権限が強化されている。管理官が任命された地方政府では、市長及び議会は、すべて管理官の書面による同意なくしてその権限を行使することはできず、また、管理官が提示するいかなる条件にも従わなければならない。さらに管理官は、PA72では認められていなかった、職員組合との労働協約を一方的に変更する権限も有している。住民投票による承認なしに新たな税を課したり税率を引き上げたりする権限はPA72同様持たないが、財産税(固定資産税)の引き上げについては住民投票を行うよう命ずる権限も有する。現実に発動されるかどうかは別として、知事の同意を得て自治体を解散する権限も規定されている。
ところが、選挙で選ばれるのではなく、州が任命する管理官に地方政府の運営に関する強大な権限を与えるPA4に対し、民主主義の基本に反するものだとして反対運動が起こった。2012年2月には州憲法で住民投票の要件として定められた5%以上の有権者の署名を集めた請願が提出され、11月の選挙の際にPA4が住民投票にかけられることとなったのである。PA4擁護派の訴訟提起もあったが、最終的に住民投票の実施が正式決定された8月、PA4は施行を停止され、州司法長官の見解により旧法PA72が復活した。 実際の住民投票においてもPA4反対票が多数を占め、PA4は廃止された。投票総数は450万票、うちPA4に賛成したのは213万票(47.3%)、反対が237万票(52.7%)であった。 (有権者総数は750万人前後と推定される。)
この反対運動の背景には、労働協約で定められた労働条件を一方的に変更されることに対する労働組合の反発もあったとされている。 州内の自治関係団体であるミシガン州地方政府マネジメント協会(Michigan Local Government Management Association)、ミシガン州自治体連盟(Michigan Municipal League)は、いずれもPA4に対して公式見解を表明していない。「PA4が必ずしも民主主義の原則を損なうものだとは思わない。自治体は州の創造物であり、州知事及び州議会もまた民主的な選挙によって選ばれている」とは、ミシガン州のある自治体マネージャーのコメントである。

(3)PA436の制定

住民投票の結果にSnyder知事と州議会は素早く反応した。PA4(の廃止により復活されたPA72)に代わり、新たな法律として、地方財政の安定と選択に関する法律(Local Financial Stability and Choice Act)(以下「PA436」という。)を2012年中に制定したのである。 2013年3月28日から施行されることとなっているPA436に定められた管理官の権限は、PA4とほとんど変わらないと言われている。
PA436とPA4との主な違いは、財政危機に陥った場合の選択肢が若干広げられたことである。地方政府は従来の①財政再建計画を含む州政府との協定(Consent Agreement)締結、②緊急管理官の任命受け入れに加え、新たに、③第三者である仲裁者を介して地方政府と債権者が60日以内で交渉する中立的評価プロセス(Neutral Evaluation Process)の実施(仲裁に拘束力はない)、④連邦破産法第9章に基づく破産申立(州知事の同意が必要)の4つの選択肢を有することとなったのである。 もちろん州は、財政再建の見通しの立たない協定締結は拒否できるし、破産申立も認めないことができる。中立的評価プロセスで債権者と合意に達した場合でも、州はその合意を拒否することもできるとされている。以上のほか、管理官の報酬は州が負担すること(従前の2法では地方政府が負担)、市議会は管理官が就任して18ヶ月を経過した後は議決により管理官を解任できることなどが新たに定められた。
このようなPA436が、PA4の廃止を選択した住民投票の結果に沿ったものであるといえるかどうかは評価の分かれるところであろうが、いずれにしても、3月28日からはPA436が施行される。3月25日にデトロイト市の緊急財政管理官に就任するOrr氏は、3月27日まではPA72、3月28日からはPA436に基づく管理官としてその職務を行うことになっている。

地方政府の財政危機に係る州政府の対応の差

財政危機に陥った地方政府に対し、州政府がどこまで介入するのかは、州によって、あるいは場合によって異なる。

例えば、2012年に3件の一般地方自治体の破産申立が相次いだカリフォルニア州は、ミシガン州の対極にあるように見える。やや時点が古いが、2012年3月に筆者が州政府から聞き取りを行った際は、次のようなコメントがあった。州憲法上、教育は州の義務とされているので、学校区については破産を認めず州による支援や管理も行う。しかし、一般自治体(警察・消防や道路・水道などの行政サービスを担当)については、カリフォルニア州政府は一貫して支援を拒否してきており、融資を含めて財政支援はない。助言にも責任が伴うので助言も行わない。(オレンジカウンティは、他の地方政府に影響が及んだので例外的に介入したとのこと。)

一方、ミシガン州のように、管理官や管理委員会を州政府が任命し、自治体の財政運営を管理する方式をとっている州は他にもある。ペンシルバニア州Harrisburg、ロードアイランド州Central Falls、ニューヨーク州Nassau Countyもこの類型に属する。ただし、管理官の権限は、ミシガン州が最も強力だと評されている。財政危機に陥ってしまった地方政府をどう再建するのか。州政府はどのような方法により、どこまで介入するべきなのか。難しい問題であるが、究極的にはこれもまた、州民(の選挙する知事・議会)の選択なのだろうと思われる。


2013年3月19日
上席調査役 川崎 穂高