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移民に対する教育の現場、Newcomers High School

新学年が始まってすぐに、ニューヨーク市の市立高校のニューカマーズ・ハイスクール(Newcomers High School(「新しく来た生徒たちのための高校」という意味))で授業の様子を視察する機会があった。ニューヨーク市の多文化共生対策の調査を行っていた群馬大学の結城恵教授と一緒に同学校の教育方法の具体例を見るためにニューカマーズ・ハイスクールで半日を過ごし、五つの教室で行われた授業を見学した。

ニューカマーズ・ハイスクールには、およそ50カ国・915名の生徒が在籍し、一昨年 (2009-2010年)、ニューヨーク市の教育局の高校ランキングで“A”(最高)の評価をもらった。また、米国の雑誌のUS News & World Reportの2009年トップ100ランキングの第六位に入り、全国的にも評判が良い。移民の多いニューヨーク市において、ニューカマーズ・ハイスクールは英語を母語としない高校生のための唯一の学校である。全米でもっとも多様な人種が住むカウンティ(郡)である、クイーンズカウンティに所在し、場合によっては生徒が市内の遠くから通学するケースもあるという。

ニューヨーク市の場合は、小学校・中学校の英語が不自由な生徒に二つの選択肢がある。父兄の選択により、普通の授業に参加しながらその上に英語の補修授業をしてもらうか、あるいは、英語とその生徒の母国語、両方で授業をしてもらう。どの場合でも、ある程度時間がたち、生徒に英語力がついてきてから、普通の子供と同じ扱いになる。

ただ、高校生になると、幼い子供と比べて言語を吸収する能力が低下し、英語を身につけることが難しくなり時間と努力がさらに必要となる。そこで、ニューカマーズ・ハイスクールのような高校が必要になるわけである。

視察した五つのクラスの内容は:

  • 「授業で頻繁に使われる指示」をテーマに、「教科書を開きなさい」などの指示に従うことを練習しながら、ごく基本的な英語と教室でのマナーを勉強するレッスン。
  • 「Yearbook(卒業アルバム)をどのようなテーマで作りましょうか」という課題で、3・4人ずつのグループに分かれて英語で話し合いをするレッスン。
  • 英文学のクラスで、ベルトルド・ブレヒトの詩「In Praise of Learning」の内容を劇のワンシーンやイラストなどを使って発表するレッスン。
  • もうひとつの英文学のクラスでは、ロバートフロストの詩、「The Road Not Taken」の内容を、ポスターで表現するレッスン。
  • 「みんなに従う?自分で考えて行動する?」(Conforming versus Individualism) というロールプレイ形式のレッスン。

生徒2~3人があるしぐさをしてもう一人がそれを傍観する。(たとえば、2~3人が酒を呑む振りをし、一人がそれを見ている)。そして傍観者役の生徒に先生が「キミならどうする」と尋ねる。尋ねられた生徒は自分の考えを述べ、それを表す行動をとる。(たとえば「仲間はずれは嫌だから僕も酒を呑む」と述べて他の2~3人と一緒に酒を呑むしぐさをするかもしれないし、「僕は未成年だからみんなが酒を呑んでも僕は呑まない」と言って立ち去るしぐさをするかもしれない)

最後に校長先生に会い、教育方針について話を聞いた。校長先生によると、近年、単なる必須科目の教育ばかりを教えるよりも、もっと包括的に家族へのいろいろなサービスを提供したり、生徒に自ら決断することや、自分の下した決断に伴う結果を自分自身で引き受けることの大切さ(decision-making and consequences)について教えたりするようになったそうである。

群馬県を含め、日本はもうすでに移民の子供(とその家族)をどうやって教育すれば良いかについて深く考えざるを得なくなっている。ニューヨーク市の経験を見て日本のために生かそうとしている結城先生の調査結果を興味深く待っている。

執筆者:Matthew Gillam, Senior Researcher