24 1月 2017

今年は20年に一度の州民投票~ニューヨーク州憲法会議

 ニューヨーク州憲法は、20年ごとに「憲法会議(constitutional convention)」の開催の是非を州民に問うべき旨を定めています。州民投票の結果、憲法会議の開催が承認されれば、同会議を舞台に州憲法の改正に関する審議が行われることになります。
 州民投票が行われるのは今年11月。昨年の大統領選挙に続き、ニューヨーク州民は今年も大きな決断を迫られることになります。

New York State Capitol

州都オルバニーのニューヨーク州議事堂

1 ニューヨーク州憲法とは

 連邦制度を採る米国では、50州それぞれが固有の憲法を有しています。州憲法は、州政府の機構や権限を定めるとともに、州民の権利を保障する州の根本法です。多くの州憲法では、地方政府(自治体)についても規定しています。
 上記はニューヨーク州憲法にも当てはまります。ニューヨーク州憲法は、州民の権利に関する規定(「権利章典」)を冒頭に置き、以下、州議会・州知事・州裁判所の三権をはじめとする州機構に関する規定のほか、教育・社会福祉・住宅供給等の住民の福祉に関する規定など、広範な事項を含んでいます[1]。
 ニューヨーク州憲法の改正は、州議会の発議によるか、憲法会議での議論に基づいて行うことができます。いずれの場合も、最終的には州民投票に改正の是非が委ねられます。
 ニューヨーク州憲法は合衆国憲法に先立つ1777年に制定されて以来、数度の大改正を経ていますが、直近の大きな改正は1938年の憲法会議における結論に基づくものです。その後も改正は行われているものの、州憲法の基本的な構造に関わるような改正は行われていません[2]。

2 すべての世代に選択の権利を

 州憲法の改正手続は州によって様々ですが、ニューヨーク州を含む14州においては、特定の期間毎に、憲法会議の開催の是非を州民に問うものとされています[3]。
 冒頭に述べたとおり、ニューヨーク州の場合は20年。この仕組みについて、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校のジェラルド・ベンジャミン教授[4]は、「ニューヨーク州憲法は、州の全ての世代に対し、政府のシステムをこのままで良しとするのか、自らの統治のあり方について根本的な変革を行うか、いずれかを選ぶ権利を与えている」と表現しています[5]。(なお、憲法会議の開催を問う州民投票は、州議会の提案によっても行うことができます。)
 今年11月の州総選挙[6]での州民投票により憲法会議の開催が承認された場合、続いて代議員を選出するプロセスに移行することとなります[7]。代議員は、州上院議員選挙区(63区)毎に3名、州全体から15名の計204名が、翌2018年11月の州総選挙において選出されます。州の有権者であれば代議員の被選挙権を有し、代議員には州下院議員と同額の報酬が支給されます。
 こうして選出された代議員は、2019年4月の第1火曜日から審議を開始します。審議は結論を得るまで続けられ、審議事項に関する制限は存在しません。憲法改正案は代議員の過半数の賛成により決定され、11月(最短で2019年)の州総選挙において州民投票に付されることとなります。賛成を得られた場合、翌年の1月1日より改正憲法が発効します。ここで否決されてしまえばもちろん、州憲法は何ら改正されないことになります。

3 20年前の議論は?

 20年ごとの州民投票において、ニューヨーク州民は1957年、1977年及び1997年と、いずれも憲法会議の開催を退けています。1967年には、州議会の提案による州民投票を経て憲法会議が開催されたものの、同会議が提示した憲法改正案は州民投票により否決される結果となりました。
 前回1997年の州民投票では、63パーセントの州民が反対票を投じました。当時の報道によれば、投票1ヶ月前の10月中旬までは賛成が大勢であったものの、強固な反対派であった労働組合等が、最後の2週間でテレビ広告やダイレクトメール攻勢をかけたことなどが奏功したといいます[8]。反対派は憲法会議を「政治家のための高価で無駄な公共事業」と称し、それが無制限かつ無分別な憲法改正をもたらす危険を指摘しました。
 対する1997年の賛成派は、税制改革・低税率を求める財界グループや州議会の少数支配に憤る議員らのほか、州議会の権力削減を唱えるマリオ・クオモ州知事と後任のパタキ州知事、ニューヨーク市行政に関する州の影響力を弱めることを狙うジュリアーニ市長(いずれも当時)など、多様な立場の人々から構成されていました。

4 州民投票に向けた動き

 アンドリュー・クオモ現州知事(マリオ・クオモ元州知事の長男、民主党)は、昨年1月の施政方針演説において、憲法会議のために青写真を作成し、代議員の選出方法の改正についても提案する超党派委員会を設立する方針を述べましたが[9]、その設立のための100万ドルの経費は、州議会の反対により予算に盛り込まれませんでした[10]。
 今年1月の施政方針演説では、州議会議員の外部収入の規制や任期制限等、州憲法の改正を推進する旨が盛り込まれているものの、州民投票が年内に迫った憲法会議については一切触れられていません[11]。住民投票に向けた州民の関心が高まっていない中、州知事の姿勢に憲法会議の推進派は落胆を見せています[12]。
 他方、一部団体はすでに憲法会議開催への反対姿勢を示しています。これらの団体は、1997年におけるキャンペーンに引き続き、州憲法が既に認めている権利(公務員の年金額の保障、労働者の諸権利など)に関わる憲法改正を強く警戒しています[13]。
 州民投票に向けては逆風も強い憲法会議。それでも、憲法会議を開催する意義について前述のベンジャミン教授は次のように述べています[14]。
 「州政府に対する州民の信頼は低下している。汚職ははびこり最高潮に達している。つい最近では、問題解決を州システムの外部である連邦検察に頼らざるを得なかった。検察によるガバナンスは危険であり、かつ好ましくない。政治的・個人的利己主義に陥っているオルバニーの権力者は何十年も改革を拒んできた。州の統治システムは自浄への意欲と能力とを欠いていることが明らかとなっている。」

(早瀬所長補佐 総務省派遣)


[1] NYS Department of State, “New York State Constitution”.
 同憲法については、自治体国際化協会比較自治研究会による邦訳がある。

[2] League of Women Voters of New York State and New York Public Interest Research Group, “Convention-Land – New Yorkers’ Road Map To The Constitutional Convention”, March 2016.

[3] Ibid.

[4] Gerald Benjamin, Associate Vice President for Regional Engagement, State University of New York at New Paltz.

[5] Nelson A. Rockefeller Institute of Government, “Rockefeller Institute Launches Constitutional Convention Educational Website”, January 26, 2016.

[6] ニューヨーク州では偶数年の11月に州関係選挙が、奇数年の11月に自治体関係選挙が一斉に実施される仕組みとなっている。

[7] 以下のプロセスについては、League of Women Voters of New York State and New York Public Interest Research Group (2016) による。

[8] Richard Perez-Pena, “THE 1997 ELECTIONS: BALLOT QUESTION; Voters Reject Constitutional Convention”, New York Times, November 5, 1997.

[9] New York State, “Governor Cuomo Outlines 2016 Agenda”, January 13, 2016.

[10] Bill Chaisson, “Time for ConCon?“, Ithaca.com, September 21, 2016.

[11] New York State, “Governor Cuomo Announces 35th Proposal of the 2017 State of the State: Restoring the Integrity and Accountability of State Government Through Comprehensive Ethics Reform“, January 11, 2017.

[12] Rachel Silberstein, “Constitutional Convention Absent from Cuomo’s 2017 Agenda“, Gotham Gazette, January 19, 2017.

[13] New York State Alliance for Retired Americans, “Your pension could vanish in a Constitutional Convention”, October 28, 2015.

[14] Joel Stashenko, “Q&A: Gerald Benjamin”, New York Law Journal, May 13, 2016.